花筏

1/4
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
「私……地獄に落ちるんでしょうね」 そう言うと、あなたは笑いました。肌寒い風が、私とあなたの間を通り抜けていきます。 私達は葉桜になりかけの川沿いを、とぼとぼ歩いていました。 あなたは、ふと川面をのぞきこみます。私は心もとなく、その横顔を見つめました。 「花筏だ。あれに乗りたいな」 その言い方があまりに少年の様なので笑ってしまうと、まるで羽の様にふわりと川面に飛び込みました。 あっという間の出来事で、慌てて欄干から覗き込むと、あなたは川面に散った桜の花びらの上に乗ってご満悦の表情です。 「君もこちらにおいで」 微笑んで手招きするのに、動けません。 「さあ」 そう言った途端、私の体が ふわりと宙に浮きました。 フレアスカートがめくれそうなのを、手で押さえると、もう花筏のうえに。 淡い桜が敷きつめられた絨毯が、少しずつ川を下って行きます。全く重力が感じられないの驚いていると、ほら、と土手の方を指差します。 「提灯が綺麗だよ」 いつの間にか桜並木に灯りがともっています。 がやがやと人の声が聞こえるので、見上げると大勢の人が桜見物をしています。 あなたはいつの間にか棒を手に、花筏を漕ぎ出しました。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!