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最初の来客
最初の来客は、やはりこの男――高林蓮だった。
「久しぶり。少し太ったか?」
顎の辺りが弛み、身体にも丸みを感じる。記憶の中の彼は、全体的に引き締まった体つきをしていた。
「はは、嫁さんの飯が美味くてなぁ」
オヤジ臭い台詞を吐きながら、脱いだジャケットの下の腹を撫でる。実際、コイツは仲間内では、真っ先に所帯を持った。
「子ども達、大きくなっただろ」
「うん、上の子は来年小学校だよ。お前、やっぱり、まだ」
蓮の視線が斜め右に下がる。日常生活では杖を必要とする程じゃないが、2年前の交通事故の後遺症で不自然な歩き方になる。
「見た目より不自由じゃないんだ」
粉々になった膝には人工関節が入っている。気遣う眼差しに、苦笑いを返した。
「それ、揃うまで冷やす?」
「いや、常温で構わない」
下げている紙袋を指せば、楽しそうに瞳を細める。今夜の鍋に入れる食材が入っている筈だが、正体はまだ分からない。
「蓮! 来てくれたんだな」
居間に戻ると、カウンターから陽斗が立ちあがる。カーテンを開け放したままの窓から、禍々しいほどの夕日が差し込んでいて、彼の姿が逆光のシルエットに沈む。
「お前……大丈夫なのか」
蓮は、まじまじと、かつての相棒を見上げた。体形は変われど、身長差約30cmは変わらない。2人は、地区予選突破が創立以来の悲願だった弱小都立高校を聖地まで導いた最高のバッテリーだった。
「ああ、少し鈍っちまったけど、すぐに取り戻すよ」
質問の意味を微妙に誤解したまま、陽斗は自分の右肘をポンと叩いて苦笑いした。だがすぐに真顔になると、元相棒の肩に左手を置いた。
「それより、こんな大変な時に、ごめんな」
「え……うん。いいんだ。会いたかったよ」
「さ、突っ立ってないで座れよ。じきに他のヤツも揃うから」
蓮の勘の良さに感謝しながら、わざと明るい声で、テーブルへ誘導する。床の上に敷いたベージュのラグの上、テーブルを囲むように、白い低反発座布団を10個並べてある。陽斗と俺と、あと8個。そのうちの窓側の1個に、蓮が胡坐をかいた。果たして、残りは幾つ埋まるだろう。
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