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左遷先はおかしな会社
このたび僕は、大学を卒業してから3年間勤めた流通系大手企業の本社でポカをやらかし、多大なる損失を与えたとして、原嶋商事という名のグループ会社のひとつへと飛ばされることになった。
これはまぁ、俗に言う左遷っていうヤツだ。
おかげで勤務地は華やかな銀座エリアではなく、都落ちとも言えるような、オフィス街かと言われれば微妙なところになった。
本社とはくらべるべくもない雑居ビルの、それもワンフロアに収まってしまう程度の人数しかいないその会社は、本社で3年間働いていた僕ですら、辞令をもらうその日まで、存在すら知らない会社だった。
経営者の一族の名前を冠した社名であるということ以外、どんな業務をやっているのかすらわからないし、こうしてやってきた今もよくわかっていない。
せっかく営業としてがんばってきて、これまでにも何度も成績優秀者として表彰を受けて出世してきたっていうのに、また一からやり直しだ。
こうなったら、この会社で僕は精一杯の業績を残して、華々しく本社に返り咲いてやるんだ!
そう覚悟を決めて、エントランスを通り抜ける。
ただその会社は、なにかがおかしかった───それも致命的なまでに。
「ようこそ三崎秀二くん、私は課長補佐の高遠数馬です」
「三崎と申します、今日からよろしくお願いします!」
「うん、元気がいいのはいいことだね」
やたらといい声をした課補はスラリと背が高く、人好きのする笑みを浮かべてあいさつをしてくる。
あわててあたまを下げれば、こちらを誉める言葉がさらっと出てきた。
いや、でもちょっと待て。
なぜ高遠課補は、僕のあたまをなでているんだ??
これが子どもにするならまだわかる。
でも僕は、れっきとした成人男性だし、こんなことをされるほど幼い外見をしているつもりはないんだけど……?
「ん?あぁ、ごめん、ついクセであたまをなでちゃってたね。これをすると悠兎はよろこんでくれるから」
ん?
んんっ??
だれだよ、ユウトって!?
「ふぅん、今度の新人?」
「あぁ、悠兎!紹介するね、新人の……」
「知ってる。つーかこの距離なら聞こえてるもん」
「そうか、それもそうだね」
そんなやりとりの最後に高遠課補は、その『ユウト』と呼ばれた青年のあたまをワシワシとなでていた。
少し強めのくせ毛で、しかも茶髪のせいか、人懐っこさとあいまってトイプードルっぽい雰囲気がする。
ていうか、それだけなでられてるのに違和感なしかよ!?
え、しかも耳だのあごまでなでられてるっていうのに、本人は非常に満足げに見えるんですけどもっ?!
それもはやペットのなで方なんじゃないの??
「あ、オレは金沢悠兎。よろしくな!」
「三崎秀二と言います、よろしくお願いします!」
ひとしきりなでられて満足したのか、人懐っこい笑顔を全開にしてひらりと手を振ってくるのに、あわてて僕も自己紹介をくりかえした。
……いや、今のところは大丈夫だ。
多少言動がおかしい気配がする社員がいようとも、コミュニケーションが盛んなだけだもんな!?
没交渉のお通夜みたいなフロアで働くよりかは、よっぽどマシだ。
だけどそう思ったのも、束の間だった。
「へー、今度の新人は目もとのキツい美人系かぁ。いいじゃん、啼かせたくなるよね。ミサキちゃんのこの細腰、さらにはキュッと引きしまった小尻っつーのも、エロくていいねぇ」
「はっ……!?」
気がつけばいつの間にか近くにきていた別の先輩に、ガッチリと腰に手をまわされ、ついでのように尻をなでまわされていた。
「ちょっ……!なにするんですか!!」
これはセクハラじゃないのかと手の主を見れば、椅子に腰かけたままの長めの黒髪を後ろでひとつにまとめている青年だった。
年齢は僕より少し上くらいに見えるけど、気だるげな目もとと、少し分厚いくちびるからただよう色気がハンパないことになっている。
「あぁ、自己紹介が遅れたな。俺は主任の北里涼平。仲間内からは『涼様』って呼ばれてる」
「涼様はね、圧倒的王子様キャラで人気なんだよ!」
「よせよ、照れるだろ、悠兎」
横から口を出してきた悠兎先輩のくちびるに、そっと人差し指を添えてウインクする姿は、たしかに王子様以外の何者でもなかった。
なかったけど!!
さらに言えば、こんなのサブイボ立ちそうな感じがするやりとりをしているってのに、ビジュアル的には一切の違和感がない。
かわいい系の悠兎先輩にカッコいい系の涼様の組み合わせは、おたがいの顔面偏差値の高さもあって、たしかに様になっている気がしなくもない。
だけどさ。
「……なんかおかしいだろっ、この会社!?」
気がつけば、僕の心の声は盛大にだだもれていた。
だって考えてもみろよ、おたがいの距離感が近すぎるし、ひとことで言うならばイチャイチャしている。
そう、男同士の『イチャイチャ』だ。
「んー、その新鮮な反応、いいねぇ」
「大丈夫、はずかしいのは最初のうちだけだよ?」
パチリと指を鳴らして口笛を吹く涼様と、小首をかしげた悠兎先輩の手が僕の肩にかかる。
気のせいか、ふたりとも顔が近くないですかね……?
「~~~っ!」
「大丈夫、慣れるまで俺様がゆっくりと教えてやるからな?」
耳もとでささやかれる涼様の声は、そのたびに呼気が耳にかかるほどに近い。
それが妙にくすぐったくて困る。
「せっかくこんなにキレイな子が来てくれたんだからさ……たっぷりと楽しまなくちゃね?」
「あの、えぇと……っ!」
かわいらしく甘えるような声の悠兎先輩は、僕の腕をとると、そのままほおずりをしてきた。
別に両脇から迫られたところで、拘束されているわけでもなんでもないんだから、腕をふりほどいて逃げ出せばいいだけの話だ。
なのにどうしていいかわからなくて、とっさに動けなくなってしまう。
だってしょうがないだろ、僕のなかでこんな状況になるなんて、みじんも想定されてなかったんだから!
「あ、あの……っ!おふたりとも、顔が近くないですかっ!?」
「え、そうかな?ふつうだと思うよ?」
「なに、ミサキちゃんは嫌だった?」
「わ、わぁぁ~~~っ!!」
思わず叫ぶように言ったところで、もう今にも両頬にキスされそうな距離までふたりが迫っていた。
「こら、キミたち、あまり三崎くんを困らせるものじゃないよ?」
「「はーい」」
その状況に耐えきれなくなって思わず目をつぶってしまったところで、その天の声が投げられた。
でも。
ギュッ。
助けてくれたのは、高遠課補だったけど、なんで僕はその胸にすがるようなかたちで抱きしめられているんでしょうか??
課長補佐、意外と胸板厚いんですね。
着やせするタイプなのかな、カッコいい……じゃなくて!
「あの、だからどうしてこうなるんですか!?」
「うん?だって三崎くん、困ってただろ?」
「それはたしかにそうなんですけどっ!」
あのふたりの先輩方にからかい混じりに迫られて、困っていたのは事実だ。
でもだからといって、上司に抱き寄せられて助けられたいなんて望んじゃいない。
しっかりと僕の背中に片腕をまわして引き寄せている高遠課補は、特に力を入れているようにも見えない。
それに決して息苦しいなんてこともないのに、引きはがそうとして腕を突っ張ろうとしても、上体をそらそうとしても、びくともしなかった。
どうなってるんだよ、この人?!
「こら、あんまり暴れてはいけないよ?」
「えぇ……っ!?」
片腕はあいかわらず僕の背中にまわされたまま、もう片方の手があごをとらえる。
そうしてくいっと軽く持ち上げられたところで、やや顔を近づけてきた高遠課補にささやかれた。
その甘くとろけるような響きの声は、耳から染み入り、脳を麻痺させる。
つづいてやってきたのは、強烈な羞恥心だ。
それこそボンッと音が出そうなほど、一瞬にして耳まで真っ赤に染まる顔が熱くてたまらない。
「ふふ、真っ赤になっちゃってかわいいな、三崎くんは」
「なっ!?」
そしてチュ、と音を立てて鼻のあたまにキスされた。
あまりにも自然な流れでされたそれに、なにをするんだという抗議の声をあげることもできずに固まったのは、不可抗力だと思う。
「あああああ、いいぃぃぃっっ!!!!最っっ高~だわ、その絵面ぁぁっ!!!!!」
次の瞬間、大音量の悲鳴?がその場に響き渡った。
あまりの大きさに、ビクッと僕の肩がはねる。
「周さん、落ちついて」
「これが落ちついてられるかっての!!最っ高の眼福天国が広がってるっつーのに、興奮しないはずねーだろっ!!」
「……周さん、口調」
「うっ、ごめんってば……」
「うん、わかってくれるならいい」
新たな存在の登場に、もはや僕のキャパシティはいっぱいになりそうだった。
だってさ、あいかわらず課補の腕に抱かれたまま、ふりかえって見たところにいたふたり。
そのふたりの顔面偏差値が、これまた高いほうにふり切れていたからにほかならない。
手前に立つのは、背中まであるやわらかな栗色のサラツヤストレートの髪をした、ミニスカスーツを着た美少女だった。
そのスカートからのぞく足は、美脚すぎてまぶしいくらいだ。
……いや、ここにいるならこの会社の社員の可能性が高いわけで、年齢的には美少女というより美人と言ったほうがいいのかもしれないけれど。
全体的にほっそりとしている華奢なその美人さんは、目もとをゆるませて、うっとりとした表情でこちらを見つめている。
化粧だってほんのりとしかしていないし、白のリボンブラウスがよく似合う、清楚系の美人だった。
そしてその美人の後ろに控えているのは、長身のモデルのような青年だ。
こちらはガタイがよくて、スーツを着ていてもなお、一目で体格のよさがわかる。
というか股下何メートルあるんだよ?!ってくらいに足が長い。
肩まで伸びる豊かな金髪はくるくると巻かれているし、スッと通った鼻筋は高く、まつげもバサバサで彫りの深い顔立ちをしている。
ひょっとしてハーフとかだったりするんだろうか?
「おかえりなさい、首尾はいかがでしたか?」
「あぁ、ただいま。いつもどおり、周さんのおかげで上々だったよ」
スッと解放されたと思えば、高遠課補はそのハーフモデルばりのイケメンのそばに寄り、手にしたジャケットを受け取ってハンガーにかけてあげていた。
手慣れた動きに、ぼんやりと見送ってしまってから、ハッと気がつく。
たぶん課補の高遠さん直々にこんなことをするってことは、このハーフモデルもどきのイケメンは高遠さんにとっての上司にちがいない。
つまりは、僕とっても上司に当たるわけで。
てことは新人の僕が、積極的に動かなきゃいけなかったのに!
こんなんじゃ、先が思いやられる。
いくらこの会社では新人だとしても、こちらは本社で鍛えられた3年のキャリアがあるんだ。
いきなり即戦力になる人材でいたいって思ってたのに……。
申し訳なさでうつむきかけたところで、ふいに視界にさっきの美人が入ってきた。
「キミが三崎秀二くん?ボク、あまねって言います!ここの会社の受付嬢だよ!」
「ハイッ、三崎です、よろしくお願いします!」
あわててあたまを下げれば、キュッと手をにぎられた。
「あとこっちのでかいのが、課長の真白木くんね。たまに口うるさいこともあるけど、基本はおとなしいワンコだから」
「え……?えっ??」
受付嬢の口から出てきた予想外の単語に、僕は首をかしげる。
まさか、このイケメン課長のことを指して『おとなしいワンコ』と称したのか?
どこにそんなワンコ成分があるっていうんだろうか?
目もとの涼やかさとかを見ると、よくてシベリアンハスキー、むしろ犬というより狼と言われたほうが納得できるくらいなんだけど。
それになによりただの受付嬢が、課長をつかまえて『ワンコ』呼ばわりしていいものなのか??
わりと本社では、年功序列が厳しかっただけに、あまねさんのその言動が気になった。
「ふーん、事前情報どおり美人さんだねー、化粧映えしそうな顔立ちで!それに腰も細いし、身長も大きすぎず小さすぎず、ちょうどいい感じじゃん!ボクが待ってたのは、キミみたいな人材だよ!」
「えっ、あっ、あのっ?」
ペタペタとこちらの顔だの肩だの腰だのとさわってくるあまねさんに、腰が引けたところで、正面から抱きつかれた。
えっ、これ役得なのか?
こんなに美人な受付嬢からのハグとか、ご褒美だと思ったところで、その手があやしい動きを見せた。
あきらかにこちらの尻をまさぐっているし、もう片方の手も胸もとをまさぐりはじめている。
「あの……んっ、ちょっ、んんっ!」
「あれー、もしかしてシュウくんは乳首弱かった?」
「シュウくんって……」
「そ、秀二だからシュウくん。ダメだった?」
かわいらしい上目づかいでたずねられれば、ダメなんて言えるはずがない。
「あの、やめっ……」
いや、でも、人前でこんなことされるなんて、僕の下半身が反応しちゃったらどうするつもりなんですか!?
なんか色々とヤバいと思うんですけど!
言いたいことはたくさんあるのに、気を抜けば息があがりそうになるし、どうしていいかわからなくてだんだんと視野が狭くなっていく。
「あれ、止めなくていいんですか、高遠さん?」
そうだ悠兎先輩、もっと言ってやって!
「うーん、さすがに私ごときでは止められないかな?」
さっきはふたりにからまれたとき助けてくれたのに、どうして今回は見逃すんですか、高遠課補?!
「周さん、ズルい…………じゃなくて、あまりやりすぎるならお父様に言いつけます。セクハラをするのは、お客様の前でだけ。個人的な欲望を満たすためにするのは禁止です」
「チッ、まったくシロは融通が利かなすぎっ!」
「周さん、約束……」
淡々と追いつめていく真白木課長に舌打ちをしたあまねさんは、ようやく解放してくれた。
「大丈夫?」
両手を頬に添えられ、ぐいっと上を向かされたところに、首をかしげた真白木課長にたずねられる。
「えっと、はい……ありがとうございます、助かりました」
うわ、至近距離から見るハーフモデルばりの美形は、圧が強い。
「そう、ならよかった」
そしてふわりと顔をほころばせると、チュ、と音を立てて今度はおでこにキスされた。
「えっ??」
衝撃に固まる僕に、さらにさらに真白木課長は爆弾を投下してくる。
「あらためて紹介するね、彼の名前は原嶋周さん、うちの社長……」
彼?社長?
だれが、なんだって……??
この美人な受付嬢が、えっ……ハッ?!
そこで突如としてよみがえるのは、この会社がどういう会社なのかも知らないって思っていたときのことだ。
僕が知っていたことは、『この原嶋商事というのは、経営者の一族の名前を冠した社名である』ということだけ。
つまり、本社の社長や会長、その他の役員クラスはその原嶋一族で占められているってことだ。
そして今明かされたあまねさんの名前は、原嶋周だ。
それってつまり────?!
「もー、すぐ種明かししちゃうんだから、シロは!堪え性がないなぁ、もう!あとでお仕置きね!」
「はいっ!」
「なんでそこで、うれしそうにうなずくかなぁ?もう、シロの変態!」
もはや目の前のおかしなやりとりすら、僕のあたまを素通りしていく。
「あの、あまねさんて……」
「だましてごめんね?ボク、男の娘だよ?受付嬢は趣味でやってんの、だってボクこんなにかわいいし?なによりかぶりつきでイケメンたちの絡みが見られるのは、このポジだしね!」
……いや、今なんか男の子の発音がおかしかったような気がする。
「ここにキミとおなじモノがついてるけど……見る?」
「い、いえ、結構です!」
ちらりとスカートのすそをめくろうとするあまねさんに、あわてて手を振ってお断りした。
そんな僕の前で、あまねさんを中心に社員たちがさっと集まり、絡み合う。
「あらためて、原嶋商事へようこそ、三崎秀二くん。うちは女性の顧客を中心に、社員のBL売りで楽しませてガッツリ商品の契約に結びつける会社……バラの香りのただよう薔薇の園……通称BL商事だよ!」
謎のポージングはたしかに絵になっていたけれど、そんなものに僕を巻き込まないでほしい。
「さっ、シュウくんもみんなといっぱい絡んで、成績あげていこうね!」
「いえ、その、遠慮しま……」
「キミの出した損害、いくらだったと思う?それを不問するように上に掛け合ったのはボク、原嶋周だってこと、知ってたかな?」
「へっ?」
またもや突然明かされる真実に、ポカンと口が開いたままになる。
「あのとき、キミのミスで取れなかった本社の契約は200億円だ……それだけの損失、キミの身ひとつでどうにかできるものじゃないでしょ」
「周さん、それは正確に言えば逸失利益であって損失じゃない」
「シロ、うるさいよ!」
あのときの数字を突きつけられれば、僕にはなにも言い返すことなんてできない。
「だからね、キミの未来はボクが買ったようなものだから、いっぱいみんなに愛されようね、シュウくん?」
「なんで、僕を……?」
あのとき僕がやらかしたミスは人為的なチェックもれで、どれだけ連勤がつづいて徹夜明けだったとしても、言い訳なんてできないほどのものだ。
それまでの成績がいかに優秀だろうと、それこそさっきのあまねさんのセリフじゃないけど、僕の身ひとつでは、一生かかっても返しきれないものなのに。
どうして助けたりしたんだろう?
いくらグループ会社と言っても、これまでにも面識なんてなかったはずなのに……。
「それはね、キミがボクの理想の受だったからさ!」
「え……?」
「さっきも言ったでしょ、化粧映えしそうな美人で、身長もちょうどいいサイズ感で、細腰ってところもパーフェクトだって」
胸を張って言い切るあまねさんに、僕は首をかしげる。
「はぁ……それは外見が好みとかそういう?」
「チッチッチッ、甘いな!たしかに単体で見ても眼福ではあるけれど、腐男子であるボクにとってはイケメンたちの絡みこそが至高!!なによりボクのコレクションである彼らとのバランスがちょうどいいんだよ!!」
うん、この社長、自分の会社の社員のこと、コレクションって言い切っちゃったね……。
遠い目をする僕は、決して冷たくなんかないと思う。
「そんなコレクションのなかでキミは、堂々たる総受けの資格があるんだ!かわいさを武器にするユウトくんには甘えられて油断してる隙に食われるとか、それなんて百合だし、男の色気を前面に押し出すエロテロリストな涼様にはガツガツ来られて照れまくり、そのテクニックにイカされる。やさしさで包み込むカズマさんの悪魔のようなささやきにとろかされて腰砕けになり、ボク以外には牙をむくシロにはどんなに抵抗しても敵わない体格差でむさぼられる……ほら、完ぺきな布陣!!」
「どこがだよっ!!」
思わず大声でツッコミを入れたところで、気のせいだろうか、あまねさんの笑顔が黒い。
「忘れないでねシュウくん、200億円……」
「うっ、それは……っ!」
それを言われてしまえば、僕には抗弁しようがなかった。
「さ、これからはボクの私欲のためにも、いっぱいみんなと絡んで儲けていこうね?大丈夫、キミにはボクが特別に手取り足取り腰取り教えてア・ゲ・ルっ!」
「~~~~っ!!」
するりと背後から忍び寄ってきたあまねさんは、僕の首に手をかけて顔を寄せると、耳へと息を吹きかけてくる。
思わずビクッと身を強ばらせたところで、背後からはフッと笑う気配が伝わってくる。
「へぇ、シュウくんは耳も弱いんだね?」
───あぁもう、どうしてこうなった?!
会社でヤラカシたミスのせいで左遷され、地道な営業努力で本社へと返り咲こうとしていただけなのに!
「「「「「ようこそ、BL商事へ!」」」」」
一斉にハモるみんなの声を聞きながら、僕はミスに気づいたときぶりに意識が真っ白に染まっていくのを感じていた。
いったい僕は、なんていうとんでもないモノに目をつけられてしまったんだろうか。
だけど、意識を失いそうになったのも束の間。
今度は『眠り姫を起こすのは王子様からのキスだね』なんて言うあまねさんの不穏なひとことに、あわてて起きる羽目に陥ったのは、言うまでもないことだった。
* end *
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