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6日前に離婚しました。
結婚9カ月でした。
主人と2人で区役所に離婚届を出しに行きました。「私は旧姓に戻るので、他の手続きがあるかもしれないから私一人で出してくるよ」と言ったのに、「一緒に行く」と言った主人。嫌だ。
区役所に着いて、番号札をもらう機械の横に立っている係の女性に「離婚届を提出したいのですが」と、話しかける主人。数歩後ろから眺める私。係の人が「こちらの番号でお待ちください。」と、番号札を主人に渡す。主人と私は椅子に座って番号が呼ばれるのを待つ。ソーシャルディスタンス仕様の長椅子には、1人分のスペースを空けるように、赤で×と印刷されたパウチが貼り付けられている。主人と私の間に貼られた赤×パウチ。シュールだな。でもこれのおかげで主人と近づかなくていいと。前方に設置してあるテレビを見ているふりをする。会話は無い。さっき番号札をくれた係の人は、あからさまにはこっちを見ないけど、きっと「あの2人離婚するんだ。離婚する夫婦ってどんな?」と思って、チラチラ私たちの様子を盗み見ているに違いない。
しばらくして、「518番の番号札をお持ちの方、2番の窓口にお越し下さい。」と機械のアナウンスが流れて、主人が立ち上がる。私も後に続く。窓口の女性に、主人が離婚届を渡すのを2歩下がった所から眺める。書類の確認をしてくれるのを待つ。「身分証明出来るものはお持ちですか?」と言われたので、2人ともマイナンバーカードを渡す。「はい、確認出来ましたので、お返しします。それでは、ここに押されているものと同じ印鑑頂けますか?」私は印鑑を鞄から取り出す。すると主人は慌てた様子で「印鑑!?あれ?あれ?あるかな。」ガサゴソと鞄を探る。私は最後の最後まで主人のこの鈍臭い姿を見なくてはならないのかと嫌気が差す。印鑑持ってくるの基本だろ!やっぱり嫌いだ。大嫌いだ。2歩後ろから、太って柴犬みたいに肉が余って段々になっている主人の後頭部を見て、やっぱり嫌いだと思う。私は先に印鑑を押す。奇跡的に同じ印鑑が鞄に入っていたらしく、主人も印鑑を押す。窓口の女性はきっと、この奥さんは旦那さんのこうゆうとこが嫌なんだろなって思ったはずだ。「それではまたお呼びしますのでしばらくお待ち下さい。」と言われたので、ふたたび長椅子に座る。会話は無い。またテレビの方を見る。内容は頭に入ってこない。「やっぱり離婚する夫婦って会話無いんだな。」って絶対に番号札くれた係の人にも、窓口の人にも思われてるだろうな。だから一人で来たかったんだよ。この嫌な時間。早く終わってくれ。てか何かしゃべれよ!2人で来たらこうなるのわかってただろ!本当そうゆうとこだよ。何度も足を組み替えながら番号が呼ばれるのを無言で待つ。ジュースでも買って来ようかなと思ったら番号が呼ばれた。「呼ばれたよ。」と言う主人に、わかってるわ!と内心突っ込みながら無言で後からついていく。男性職員から離婚届を受け取りましたという証明書のような紙切れと、離婚届を出したらどんな手続きが必要かが書かれたプリントをもらい、「これで手続きは終了です。」男性職員はその後に続ける言葉に迷った末、笑顔で頭を軽く下げた。気を使わせてごめんよおじさん、と思いながら、「ありがとうございました」と主人と私は頭を下げた。そして主人と距離を取りながら区役所を出た。普通、ここでなんか一言あるだろうけど、この人は何も言わないだろな。と思ってたら案の定何も言葉を発しない。私からは何も言いたくなかった。やっぱり最後まで男らしく無いな。
家の玄関に入って主人が靴を脱ぎながら「お疲れさ…」と言った。お疲れ様って言いかけたけど、なんだよお疲れ様って!って私に思われると思って言葉引っ込めやがったなと思いながら私は靴を脱いで、部屋に入る。このまま会話の無いこの不快な家にいるのはまっぴらごめんだったので、「買い物いってくる。」と言って帰宅して1分後には外に出ていた。
自転車に乗り、ペダルを漕いで、主人から逃げ出す。まだ引っ越しは先だけど、もうこのまま主人のいる家に帰らなくても別にいいんだと思うと嬉しくて、空を見上げた。広い。どこまで行っても自由なんだな。もう主人のこと、考えなくていい。主人を嫌だと思わなくていい。主人のことを好きになれない自分に悩まなくていい。主人に優しくなれない自分に嫌にならなくていい。笑顔のない自分にさよならだ。
私にとって、こんなにも笑うことが大事だったのだと知った。笑いの無い毎日、楽しくない日々は何の思い出も、記憶も残らないのだと知った。
離婚から6日しか経っていないが、私はすでに実家にいる。主人のことはもう過去の事になりつつある。実家で会話と笑いのある生活に戻り、主人との生活より明るくて楽しい。それでいいじゃないか。後悔するかもしれないし、先は苦労するかもしれないけれど、笑顔の無い生活を続けてたところでそれはきっと幸せとは呼べない。覚悟の上で離婚したのだから、どうなっても仕方ない。笑って笑って笑って、もうそれしか私には無い。
どっちが悪いとかじゃなく、どっちも悪かった。もう終わった事だ。もう解放されたんだ。もう自由にしたらいい。食いっぱぐれたり、死にそうになっても、寿命が尽きるまでは生きているだろう。すべて受け止めていく所存です。どうなったとしても、主人と居るよりはマシだ。
わがまま身勝手で、努力も覚悟もできなかった自分の性格はなかなか変えられないものだなと実感した。幸せって何だろう。幸せにならなきゃと婚活してやっと結婚したが、自分の性格をねじ曲げることができずに早々に離脱。結婚が私にとっては幸せではなかった。早かろうが遅かろうが離婚しただろう。
いま、幸せだなと思う。結婚する前もずっと幸せだったんだなと気づいた。毎日笑っていられる事が私にとっては幸せだったんだなと気づいた。もうゆっくりやっていけばいい。みんなに離婚報告もしないといけないなとは思うが、もうそんなことはゆっくりでいい。別に私が離婚しようがみんなに迷惑かけるわけじゃない。どう思われようが関係ない。所詮他人事だ。結婚も子供もあきらめたら、楽になった。他人の目を気にしすぎてたのかもしれない。こうでなきゃいけないと。そうじゃなかったんだな。
もう結婚、離婚のこと振り返るのはやめよう。もう充分考えた。もう主人を思い出したくない。
隣のリビングから、母と祖母が何か話をしている。祖母が面白いことをしたらしく、父と母が、がはははと笑う。今日も祖母を散歩に連れて行こう。
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