十五、熱は死んでも治らない。

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 すみれ色の着物にやや黄色みがかった白の帯、長い黒髪をアップにし軽く巻いた後れ毛を耳元に垂らしたあゆらは、騰に申し訳なさそうに歩み寄った。  そのあゆらの装いを見た騰は満足そうに微笑んだ。 「よお、嬢ちゃんにはやっぱりその着物が似合うな」 「愛だけでなく私までこんないいお着物をいただいてしまって、なんだか悪いですが……ありがとうございます」 「ふふ、あゆらさんのも杏奈さんのも、私が一緒に見に行って決めたんですよーっ」  得意げに言いながら騰の後ろからひょこっと顔を覗かせたのは、未だあどけなさを残す愛らしい少女のような風貌の千夜だった。  ところどころに牡丹の花柄が刺繍された桜色の着物に、金箔が散りばめられた漆黒の帯、首元までのハーフアップにされた淡茶色の髪には、かんざしが彩りを添えている。  さすが騰の見立てだけあって、千夜の可憐さを最大に活かした装いだ。 「千夜ちゃん、久しぶりね!」 「はい、あゆらさん、お元気そうで何よりです!」 「千夜ちゃんが神戸に来てくれるだなんて嬉しいわ、今度子供が学校に行ってる間に一緒にランチでもしましょうね」 「本当ですか!? しますします、すごい楽しみですーっ!」  まるで学生時代の旧友に再会したかのように、キャッキャと会話を弾ませる千夜とあゆら。  二人は颯懍の事件以来、戦友のような感情が芽生え、頻繁に会えなくても通話アプリなどで個人的に連絡を取り、今ではすっかり親友のようになっていた。  ちなみにあゆらの方が年下なのだが、最初に話した流れのまま、年上の千夜の方が敬語を使ったままだ。その方がお互いに落ち着くらしい。    そんな女性陣のすぐ側には、黒のスーツとサングラスでバッチリ決めた愛の父親がいた。  すらりと高い背に鍛え抜かれた長い手足、照明を反射させるほど煌めく金髪を一つに束ねた彼は、本場のSPも真っ青になるほどスーツ姿が様になっていた。
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