十五、熱は死んでも治らない。

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「愛がこんな早く来てるなら俺も急いで来ればよかったー!」 「お前は起きるのが遅いんだ、父上の早起きを見習えバカ者」 「そんなこと言って謙信(けんしん)、お前愛に会うからって朝からやたら身なり気にして時間かかったんだろうが、男のくせにダッセーの!」 「なんだと、お前のようにガサツな奴に俺の繊細な恋心は理解できまい、このバカ信玄(しんげん)!」  天才とは二代続かないとはよく言ったもので、父である騰の文を受け継いだのが謙信、武を受け継いだのが信玄、と、綺麗にぱかんと分かれて生まれてきてしまった。  背丈も体格もほぼ同じ二人だが、その才や性質の違いからか、顔つきにもそれぞれ個性が現れている。  まだ小学三年だというのに紺色のスーツもよく着こなしており、妙な貫禄と大人っぽさが滲み出ているのは血筋と生い立ち故かもしれない。  つまり二人とも文句なしにかっこいい。  それは間違いないのだが——。 「なあなあ愛! こないだ俺、陸上の県大会で一番になったんだぜ! そしたら付き合ってくれるって言ったよな!?」 「いやいや愛、俺はこの前の学力試験で県一位を獲った、そうしたら付き合ってくれると約束したよな?」  二人は愛にゾッコンだった。  乳児時代の愛を写真で見た時に同時で一目惚れし、実際会った幼児期にさらにフォーリンラブ。  時が経てば経つほど、会えば会うほどその気持ちは膨れ上がり、二人が愛の恋人の座を奪い合うのはもうお決まりの光景となりつつあった。    しかしフランス人形のように透き通った美貌の持ち主はそんなことどこ吹く風、知らん顔をして志鬼に抱きついた。 「嫌やぁ、愛はパパと結婚するもん、パパ大好きやもーん」  残念ながら、愛は筋金入りのファザコンだった。 「おー、よしよし、そうやなあ、愛はパパと結婚するんやもんなー!」 「うん、愛パパと結婚するー! 他の男の人なんか汚らわしくて無理〜!」 「そ、そんなあ、めごおぉ!?」 「ち、父親との婚姻は不可能だから考え直した方がいい!」  志鬼の片腕にひょいと抱っこされながら、見せつけるように頬をすりすりする愛。
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