十五、熱は死んでも治らない。

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「じ、じゃあ俺が陸上で日本一になったら付き合ってくれよ!」 「俺は学力で日本一になる! そしたら結婚してほしい!」 「はああ!? 抜け駆けすんじゃねえよこのガリ勉!」 「将来的に見たら頭がいい方が経済力も高く幸せな暮らしができる、足なんか速くてもなんの役にも立たないから俺の方がいいぞ愛!」 「軟弱者が愛を守れるわけないだろ! 立場が立場だし俺みたいに逞しい男が一緒にいた方が安心だ! 俺と結婚してくれめ——ガッ!?」 「うぐっ!!」  愛に食いつく勢いで迫りながら、論争を繰り返す二人の頭にありがたき鉄拳がお見舞いされた。   「お前ら、黙って聞いてたら好き放題言いよって、極道の息子なんかに可愛い娘を嫁にやるわけないやろうが!」 「え……ええっ!? 志鬼さん自分は!?」 「横暴だ、棚上げだ!」 「うるさい! 俺はええねん!」 「理不尽だああああああ!!」  志鬼にお灸を据えられ嘆く息子たちを、騰はやれやれ、とあきれた目で見ていた。 「しかし、そんなに娘がべったりだと、嬢ちゃんは愛情不足になったりしねえのか?」 「そんなわけないやろ! 俺にとっては嫁さんも可愛い! 可愛い可愛いいつまでも可愛い!」  騰の指摘に、志鬼は愛を抱っこしていない方の腕であゆらの肩を抱き寄せた。  しかし、当のあゆらはやや不服そうに目を細めている。 「……そうかしら? なんだか愛情が二分(にぶん)されてしまったような気がするけれど?」 「——ええっ!?」 「パパは愛のなんやから、ママとイチャイチャはめっ、なんよ!」 「い、いやいや、でも二人とも好きやし大事やし!」 「そんなこと言いながら、志鬼は私のことが好きよ、ねえ?」 「違うもん! パパは愛だけーー!!」 「こ、これは困る、めっちゃ困る、けど幸せ……!!」  自分を間に挟みながら取り合う愛妻と愛娘に、志鬼は先ほどまでの鬼の形相はどこへやら、すっかり鼻の下を伸ばしきっていた。  志鬼にとっては、毎日が両手に花である。
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