十五、熱は死んでも治らない。

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「んなこと言うて騰、お前はどうやねん、ふしだらなことして千夜ちゃん悲しませてるんちゃうやろうな」 「バーカ、んなことするわけねえだろ、俺は(めかけ)は作らねえ主義だからな、こんな可愛い女は他にはいねえしよ、なあ、千夜?」  志鬼に負けじと隣に立つ千夜の肩を抱く騰だが、こちらも妻の反応は思う通りとは行かなかった。 「そんなこと言ってもタバコはダメだからね」 「なっ!? そ、そんなつもりで言ったんじゃねえぞ!」  千夜に優しく嗜められ、騰は急に焦った。  千夜は騰の健康を考えて、絶賛禁煙を勧め中なのだ。さすがは騰専用看護師である。 「いやっ、でもよ、一本もダメなのか? せっかくのめでてえ席だっつうのに、煙管一本くらいいいだろ? な、な?」 「……うーん、じゃあ、今日だけ特別だからね」 「サンキュー千夜! 愛してるぜ!」 「もう、調子のいい旦那様なんだから」  目尻にくしゃっと皺を寄せて、恥ずかしげもなく千夜の額に口づける騰。  少し困ったように眉を下げながら微笑む千夜には、愛おしさが滲んでいた。  こちらもなんの問題もなく、相変わらずの順風満帆ぶりだ。 「……父上よりも母上のが強ええ」 「つまり最強は父上ではなく母上」  騰と千夜のやり取りを側で見ていた双子が、そう口々にした。 「母上は癒し効果がすげえからな、組員たちの相談役にはもってこいだ」 「あまりにひっきりなしに話を聞きに来てもらう組員が多いものだから、父上が集会を開き注意したくらいだからな」 「ええ、そうなの、千夜ちゃん?」  謙信と信玄の話に、思わず問いかけたあゆらに、千夜は首を傾げて苦笑いをした。 「は、はい、なんかよくわからないんですけど、いつの間にか『お千夜の部屋』と呼ばれるようになっていて……」 「もうそれは元の仕事柄と言うよりも、千夜ちゃんの性質ね……」 「あっ!」  あゆらが感心したように言うと、志鬼に抱っこされていた愛が会場の出入り口を指さした。
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