十五、熱は死んでも治らない。

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 そこには鮮やかな山吹色の髪を、ワックスで整えた小柄な青年がいた。  もう三十歳の男性に青年と言うのは相応しくないかもしれないが、彼は未だに大学生と間違えられてしまうほど若々しく見えた。  彼の姿を認めた志鬼は、愛を優しく床に下ろした。  すると愛は華奢な足をはためかせながら彼に向かって行った。 「てっちゃーーん!」 「おお、愛、久しぶり……ちゃうな! 毎日のように会ってるやん!」  まるで久しぶりの再会のように嬉しそうに駆け寄って来た愛を、虎徹は満面の笑みで受け止め、小さな頭を撫でた。  虎徹も珍しく、正装をしていた。  光沢を控えられた黒に身体に添うシルエットのスーツは、虎徹のスタイルのよさをしっかり際立たせている。  そんな虎徹の傍らには、もう当然のように麗しい淑女が立っていた。  若葉のように爽やかな緑色の和服に、夕焼け色に美しく染め上げられた帯を着こなした彼女は、女優のように洗練された雰囲気を漂わせている。  そしてその見目は時が止まっているのではないかと疑いたくなるほど、綺麗なままだった。 「バーバもこんにちは!」 「こんにちは愛ちゃん、今日も可愛らしいわね、自分の孫ながらお人形のようだわ」 「バーバにも似てるからね、クラスの子がね、バーバ見たらびっくりするんよ、愛のおばあちゃん、お姉ちゃんみたいやぁって!」 「あ……あらあら、それはなんだか、嬉しいような、恥ずかしいような」  杏奈は頬に手をやりながら、少し眉尻を下げて微笑んだ。 「そりゃそうよな、どう考えても孫がおるようには見えんもん。うちのお客さんも杏奈さんの歳聞いたらたまげるからな」 「特に若作りしているわけではないから……きっと虎徹くんの美容にいい手料理のおかげね」 「いや元のスペックが半端ないんで! けどそんなん言うてもらったらめっちゃ嬉しいっす! これからも美味くて健康になれる料理バンバン出してくんでめっちゃ食べてくださいね!」  にこにこ笑顔の虎徹に、答えるように花笑みを返す杏奈。  こちらも安定した仲睦まじさである。
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