十五、熱は死んでも治らない。

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 ようやく宴の準備が整うと、来客……組員たちは各自自分の席に着いた。  端から端を臨むのが困難なほど広々とした和室の中ほどには、座布団と食事台が真っ直ぐ二列に並んでいる。  その左列の先頭に恵、右列の先頭に颯懍が座り、志鬼たちは特別に設けられた騰より少し下がった左横に、謙信と信玄は右横に控えていた。  部下たちより一段高い上座に堂々と腰を据えた騰は、今ある景色を生涯忘れぬようにとしかと見届け、胸に刻み込んでいた。  子供の頃から望んでいた、バカげているとも言える途方もない夢が、今確かに実現したのだ。  千夜は当然、騰のすぐ隣にいた。  騰の野望が叶う瞬間。  それをまさか妻という立場で、こんなに近くで見守ることが許されるとは、千夜の方が夢でも見ている気分だった。 「おめでとう、騰にい……あっ、旦那様」 「かまわねえ、そのままでいい」  感動のあまり以前の呼び名を口走る千夜を、騰は機嫌よさそうに肯定した。  アンバランスな瞳が、爛々(らんらん)と光る。  自信家で、負けず嫌いで、艶っぽいのに少年みたいで、怖いのに優しい、騰らしい表情(かお)。 「八代目組長襲名……おめでとうございやあああああす!!!」  一斉に沸き起こる部下たちの喝采を受けながら、騰は酒を煽る。  朱色の丸い(さかずき)に、ありったけの欲望と情熱を注ぎ込んで。 「……さてと、次はどんな悪さをするかな」  逆瀬川騰の旅は、恐らく死しても終わらない。  ——了——
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