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一、再会は突然に。
「千夜ね、大きくなったら騰兄ちゃんのお嫁さんになりたい」
「……ア?」
茜空が辺りを染める頃、背負った赤いランドセルの持ち手に力を込めながら少女が言った。
いや、幼女に近いかもしれない。
中学三年、十五歳の逆瀬川騰は小学三年、九歳の祭千夜に呼び止められ、間抜けな声を漏らしながら立ち止まった。
振り返った先にいる千夜は、大きな丸目を潤ませながら必死に騰を見上げていた。
短ランに藍色のTシャツを着た騰はため息混じりに千夜に近づくと、目線が同じになるようヤンキー座りをして咥えていたタバコを指先に挟み口から離した。
「何ませたこと言ってんだ、ガキが」
「が、ガキじゃないもん」
「六つも下なんだからガキだろうがよ、俺はロリコンじゃねえ」
「で、でもっ、千夜がハタチになったら、騰兄ちゃんは二十六だし、おかしくないよね?」
「ああ?」
食い下がる千夜に、騰はからかうように笑って見せる。
何も通り魔的に逆プロポーズされたわけではない。
千夜の右口元には、三センチ程度の青痣のようなものがある。肌が白いためより目立つそれのせいで、クラスメイトにいじめられ泣いていた学校の帰り道、騰に出会ったのだ。
騰は千夜に小石を投げていた同級生の男子たちを威圧で追い払った。
強ければ強い者ほど叩き潰して地面に這いつくばらせるのが面白いと思っている騰にとって、弱い者いじめの悦は理解不能で見ていて苛立ったから。
ただそれだけで起こした行動のせいで、すっかりこの千夜に懐かれてしまったというわけだ。
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