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1. 友哉
「友哉、どう? いる?」
あきらが耳のすぐそばで、囁くように聞いてきた。
俺は閉じていた目を開いてゆっくりと周囲を見回した。
左斜め上の方に、うずくまった人影がぼんやりと見える。
「いる」
「何人見える?」
「ひとり……女の子かな」
「ふうん、女の子かぁ」
何でもないような返事をしてきたが、俺を案内するために掴ませてくれているあきらの腕は、ほんの少し硬く緊張した。
幼馴染のあきらとは小学校に入る前からの長い付き合いだ。声の響きと息づかい、触れている体の動きなんかで、あきらの感情はいつでもバレバレだ。
「大丈夫だよ、敵意は感じないから」
「あ、そう? なら良かったぁ」
ほっと吐かれる息と、ゆるめられる腕の力。
あきらは半分あやかしのくせに、なぜか幽霊が怖いらしい。
見ようと思えば自分の目でも見ることが出来るはずなのに、引っ越し当日はまず最初に俺に確認させるのだ。
「お二人さんはいつもこういう物件に住んでいるのかい」
後ろから年配の男の声がする。この貸別荘の管理人をしているというおじさんだ。
「ううん。こんなに大きい家具付き一軒家なんて、めったにないよー! 大抵はワンルームとかの狭いアパートだし、ま、男二人だから狭くても困らないけどさ」
あきらの能天気な声が少し反響している。この家の玄関はかなり広いホールになっているらしい。
「あ、いや、そうじゃなくてね。いつも殺人とか自殺があったような訳あり物件に入居するのかなって……」
「そうそう、そんなんばっかりだよー。ワケアリは家賃が安いし、即日で入れることが多いからさ」
「それに、霊が出ると言われる部屋も、換気扇が故障して変な音がしていたとか、近所に住む子供の声が反響していたとか、ほとんどは勘違いだったってことが多いんですよ」
俺が補足説明をすると、おじさんは脅すように声をひそめた。
「でもここ、ほんとに出るよ」
それは分かっている、この俺の目に見えているから。
俺は女の子のいる方を見上げた。位置から考えると、女の子がいるのはこの家の二階だろうか。
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