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「出るってさ、具体的に何があったの?」
あきらが興味津々という声を出す。
「聞きたいかい?」
「うん!」
「夜中になるとね、パタパタと足音がしたり、リモコンとか本とかが突然落ちたり、女の子の泣き声が聞こえたりするらしいんだよ。このままじゃ貸別荘にも使えないし、ちょっと困っちゃってね」
「なーんだ、典型的すぎてつまんないね」
「はぁ? そんな面白半分な態度で本当に大丈夫なんだろうね?」
あきらの言い方が気に喰わなかったのか、おじさんの声が少し不機嫌になった。
「大丈夫だって、俺達慣れてるもん」
「本当かい? 思っていたよりずいぶんと若いし、霊能者っぽくも見えないし」
「あの、霊能者じゃなくてただの便利屋ですから。電気系統などに不具合が無いかもついでに調べておきますね」
取りなすように言うと、おじさんはぐいっと俺の肩を触って来た。
「いや、これは電気系統なんかじゃないよ、ここのは絶対本物だって」
このおじさんは幽霊にいて欲しいのか、いて欲しくないのか、どっちなんだろう?
「夜になったら枕元に出るぞぉ。夜は怖くて眠れなくなっちゃうぞぉ」
もしかして俺が幼く見えるんだろうか?
子供を脅すような口調が面白くて、俺はクスクスと小さく笑ってしまった。
夜中だろうが昼間だろうが、いるものはいるのだけど。
「平気ですよ。俺はいつでも夜の中にいるようなものですし」
「え……」
おじさんは慌てて俺から手を離した。
息を呑んだのが気配で分かる。
「あ、いや、失礼だが、君はその、まったく見えないのかい」
「はい……」
俺は声のする方へ、静かに微笑みを向けた。
「あなたの見えているものは、俺には何も見えません」
おじさんはその言葉を深読みしたみたいで、ごくっと喉を鳴らした。
「み、見えていないものが見えるとか言わないよね?」
「さぁ、どうでしょう」
見えると言うと嘘つき呼ばわりして、見えないと言うと霊能力が無いのかとがっかりする。このおじさんはそういう類いの人らしいから、曖昧にごまかしておくのがいいだろう。
「じゃ、じゃぁよろしく頼む。賃料をタダにする分ぐらいは仕事をしてくれよ」
おじさんは何となく気まずくなったようで、この家に関する簡単な資料と鍵を俺に渡してさっさと退散していった。
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