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「なぁ友哉、すごくない? 玄関ホールだけでこの前のワンルームより広いんだよ。今日から三か月はお金持ち気分だー!」
あきらの機嫌のいい大声が、広い空間に反響する。
「あはは、そうだな。あきらこれ」
「うん」
あきらは俺の手から資料と鍵を受け取ると、片手で俺の手を取って横の壁に導いた。
「そっち側が全面下駄箱で、反対側にはすげぇ大きな鏡があって、玄関の段差は20センチくらいだよ」
「了解」
俺はそろそろと手探りで玄関の段差の部分に座り、スニーカーを脱いだ。
床は滑らかな石のようだが、ざらりと砂埃の感触がする。
「あんまり掃除されていないようだな」
「さっきの管理人も、怖がっちゃって近付かないんじゃん?」
「後で掃除しないとな」
「えー、めんどい。どうせ三か月しかいないのにー」
「三か月も埃まみれで過ごす気かよ」
「いいじゃん、ホコリマミレで」
「あきら」
「友哉お兄ちゃん、怖い顔しちゃイヤン」
「後できちんと掃除するぞ」
「はぁーーーーい」
「はい伸ばし過ぎ」
「はいはい」
「はいは一回」
「そのフレーズ何回も聞いて飽きたー」
「お前が何回も言わせるんだろ」
「だってぇ」
どこへ引っ越しても同じような会話をしているのを思い出して、つい笑ってしまう。
つられたようにあきらも笑った。
「ほら、笑ってないで資料見てくれ」
「先に笑ったの友哉じゃんか」
くすくす笑いながら家の中に入ったあきらは資料を読み始めたらしく、少し離れたところでペラリと紙をめくる音がした。
「うわぁ、ここ一家心中だってー。事業に失敗した父親による無理心中で、奥さんと娘さん二人も刺されて死んだって……。なんでわざわざ貸別荘で死ぬかなぁ」
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