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ああ、ダメダメ!
梢は再び情報誌を閉じた。
「あ……そうだ」
ふいに梢の頭の中にアイデアが浮かんだ。こうしちゃいられないとばかりに立ち上がり、駆け足で公園を出る。
向かったのはよく当たると噂の宝くじの売り場だった。何枚買おうか、自分の財布と相談する。財布の中身は少なかった。少なかった。
まあ、仕方がない。梢は有り金を集めて、「一枚ください」と係のおばさんに差し出した。おばさんは一瞬きょとんとしたが、すぐににこやかな顔になり「一枚ね」と頷いてくれる。
たった一枚の宝くじを受け取った梢は、それを両手にはさんで「なむなむ」と念を込めた。
どうか、どうかお願いします。ちゃんと家の手伝いも勉強もしますから……ついでに家のそうじも。
「ねえ」
その時だった。
誰かが梢の肩を叩いたのは。
「あなた……お金が欲しいの?」
♯
そもそも、私こと熊本梢がお金を必要とするようになったのは、ケンタロがきっかけだった。
ケンタロというのは、私のクラスメイトで、隣の席の男子だ。
ことは七月に遡る。休み明けの月曜日に登校した私は、ケンタロの肌が金曜日に会ったときよりも更に黒くなっていることに気づいた。
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