プロローグ

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「うわあ、黒っ!」  私が言うと、ケンタロは「こずちゃん、おはよ」と笑った。日に焼けた肌のせいで小さい歯が白く浮いて見える。 「かりんとうが制服着てるのかと思った。そんなに焼けて、今度はどこに行ってきたの」  私は席に着いて尋ねた。「へへ。見てみて」とケンタロは私の方に身を乗り出すようにして写真を見せてくる。  青い海を背景に、大福みたいなポテッとしたフォルムのオレンジ色の魚が数匹、岩の上で身を寄せ合っていた。どこか間の抜けたような、ボ~っとしたような顔つきの魚だ。 「かわいくない? フウセンウオっていうんだよ。こずちゃんに見せようと思って写真撮ってきたんだ」  ケンタロは連休のあいだ近くの海に行って潜ってきたのだと、嬉しそうに語った。  こやつはスキューバダイビングという北国の高校生にはめずらしい趣味を持っている。アルバイトでコツコツとお金を貯めては近くの海や湖に潜りにいくらしい。卒業後の進路も、インストラクターとしてダイビングショップに就職するつもりだと前に言っていた。 「きのうは透明度が高くてすっげえきれいだった。こずちゃんも今度一緒に潜ろうよ」
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