「金閣寺」の呪縛

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Eテレの「100分de名著」を見る。今夜から三島由紀夫の『金閣寺』を取り上げ、解説者は芥川賞作家の平野啓一郎である。30そこそこでこのような日本文学史上に残る傑作を書いてしまったことは、三島にとって幸福だったのか不幸だったのか。作中の溝口が金閣寺に取り憑かれ、固執し、焼き滅ぼすことになったように、三島もまた、この世紀の傑作を若くして完成させてしまったことに縛られつづけたのではないか。だからといって『金閣寺』という小説をなかったことになど出来るはずもなく(平野が番組内で述べていたように、この作品を三島由紀夫の最高傑作だと考える人は多いし、三島作品で一番売れた作品でもある)、この先『金閣寺』を超える作品が書けないことがわかった以上、彼は死ぬしかなかったのではないか。書く才能の枯渇ではなく、自作の『金閣寺』を超越することが出来ないことへの絶望による死……。そのことが、あのような特異な自死に至った理由であるかどうかがわからないが、『金閣寺』を超える作品が書けないと自覚した以上、三島は「行動の人(これは思想の人と同義である)」になるしかなかったのである。  溝口が金閣寺という存在を父から聞いて知って以来、金閣寺に支配されつづけたように、三島もまた『金閣寺』の呪縛に死ぬまで拘束されつづけたのではないか。(了)
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