お母さんの本音

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 物が豊富で食べ物にも水にも事欠かなくて戦争も伝染病もない平和な世の中。それが当たり前だった時代に育ち、大人になってからもそうだった。こんなことは歴史的に見て稀だ。私は大した天災や事故にも遭わず、リストラにも遭わず、健康に恵まれ、友人にも恵まれ、子供にも恵まれ、娯楽にも恵まれ、文明の利器にも恵まれ、全く恵まれ過ぎだ。だから運の悪い人や先人と比較して大した苦労もせずに軟弱に人間が出来上がったんだと思う。お陰でコロナ禍になっただけで甚だ不安な毎日を送るようになり、早く当たり前の生活に戻りたいと強く願望を持つようになった。歴史的に見て当たり前でない当たり前の生活を。慮ってみれば、虫のいい贅沢な願望だ。生まれた時から戦争があって、それが為に早く両親を亡くし、孤児になり、衣食住ままならず、飢えや渇きに苦しみ、路頭に迷い、お母さんに抱かれた遠い記憶の温もりだけを頼りに死んでいく、そんな悲惨な人生を思えば、猶更だ。だからコロナぐらいなんだ!がたがた言うんじゃない!と私は近頃、言いたくなったのである。但、コロナに感染した人たちやコロナに感染するリスクを冒して治療する医療従事者たちやコロナの所為で職を失い貧困に苦しむ人たちのことを思えば、矢張り猛威を揮う恐ろしいことに違いないから借金大国たる日本(政府の借金、取りも直さず政府が発行する国債を買うのは主に銀行や保険会社、つまり預金したり保険料を支払ったりする国民の金で買うのだから政府は国民から借金している訳)の政府よ!どんだけ国民から借り倒して借りを返さず国民を見殺しにする気だ!今こそ国民から借りた金で国民を救え!  コロナ禍に於いてお父さんは正義感が強くて真面目で自分に厳しい人だからこんなことを言うようになったんだ。一方、お母さんはコロナ禍でも以前のように野球観戦、サッカー観戦、ボクシング観戦、プロレス観戦、水泳観戦、相撲観戦を楽しんでいる。そして僕をジムに通わせる。筋トレして逞しくなれと言うのだ。その真意がこの頃、読めて来た。ズバリ言うと男の肉体美が見たいのだ。野球観戦とサッカー観戦はそれをカムフラージュする為だ。その証拠にいずれのルールも知らないのだから。なのに真剣勝負をする男の姿が見たいのと実しやかに言う。本音は男の分厚い胸板や逞しい二の腕やシックスパックの腹筋にセクシーさを感じてそれを見たがっているだけなのだ。してみると相撲観戦もカムフラージュの為か?それともデブも好きなのか?そう言えば、「我々は女の裸体は滅多に見られないけれども女は相撲さえ見に行けば、いつでも逞しい男の裸体が見ることが出来る。これは女が得をして男が損をしている場合であると思う」と芥川龍之介が書いているが、その頃の力士は筋肉質で瘦せ型が多かったのかもしれない。ま、それは兎も角、女は男程、いやらしくないという社会的通念に沿って本音を言わないだけで男が女の裸を見たいのと同じで実の所、スケベなんだよ。そしてスケベ根性が強いからコロナ禍でもスポーツ観戦に行き続ける訳だが、お父さんは自分の妻だけにお母さんを美化するからそうは思っておらず、勇猛果敢だ、見習わなければならないと大袈裟に感心している。
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