お化け屋敷

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お化け屋敷

 とある遊園地のお化け屋敷で働いていたE子さんが体験した話。  そのお化け屋敷は、江戸時代の流行病がモチーフになっており、座敷牢に閉じ込められた病人、奇形児の首を絞める母親、廃寺に積まれた死体の山など、幽霊は一切出て来ないが、生理的嫌悪感を催すかなり薄気味悪い作りとなっている。  遊園地自体も時代に取り残された様に寂れており、過疎化の進む地域にあるせいもあって、昼間でもお客さんはかなり少ない。それが尚更、このお化け屋敷の不気味さを際立たせていた。  ある平日、いつもの様にお客さんが少なく、暇をしていたE子さんは開園から夕方まで受付の椅子にもたれ掛かりぼーっとしていた。  入り口の奥では、たすけてーー、きゃーー、うわーー、うらめしやーー……とお馴染みの効果音が虚しく響いている。  〝あの、ちょっとすみません〟  聞き慣れない効果音が中から聞こえてきた。  〝こっちへ来てくれませんか〟    また聞こえてきた。効果音では無いようだ。  〝気分が悪いので動けないのです、誰か助けて〟  E子さんは、それは大変だと思い「今行きます!」と奥に向かって叫ぶと、懐中電灯を持ってお化け屋敷の入り口を潜った。  相変わらず、生ぬるくかび臭い風が流れてくる。職場とはいえ、やはりこのお化け屋敷は気持ちが悪い。E子さんは懐中電灯で辺りを注意深く照らしながら声の主を探す。痘痕で顔が膿んだ人形達だけが薄い光に照らされる。  「どこですかーー、大丈夫ですかーー」  E子さんは何度も暗闇に呼び掛けたが、返事を得られないままとうとう出口付近まで来てしまった。  (誰も居なかった、きっと聞き間違いね)  E子さんは出口を開けようとした。  〝すみません助けてください〟  後ろから声がした。  E子さんは「はい!」と返事をして声のする方に懐中電灯を向けた。  誰も居ない。  ……青白いライトに照らされる無縁塚のセットだけがあった。  E子さんはゾクっとした。  考えてみると今日、E子さんはずっと受付にいたが、お客さんはおろか、スタッフさえ、お化け屋敷には入っていない。  〝誰かーー〟  …………  〝誰かたすけてーー〟  今聴こえてくるこの声は?  〝たすけてーー〟  ……E子さんはパニックになりつつ出口のドアノブに手を掛けようとした。  (あれ?)   ドアノブが見当たらない。  さっきまであったはずの出口無くなっている。  (閉じ込められた!)  得体の知れない恐怖がE子さんを襲う。  そんなE子さんを他所に、壁を一枚隔てた向こうからは愉しげな曲が流れてくる。  (怖いけど入り口まで戻るしかない!)  そう決心したE子さんは勇気を振り絞り、懐中電灯を両手で握りしめながら後ろを振り向いた。  両手を広げた血まみれの男性が立っていた。  男性が口を大きく開けた。  〝タスケテーー!〟  E子さんは病院のベッドで目を覚ました。  出口付近で意識を失い倒れているのをお客さんが見つけ、直ぐに救急車で病院に運ばれたらしい。  E子さんの首には、何かに締め付けられた様な赤い痣があった。  あと数分、発見が遅れていたら死んでいたと医者から言われた。
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