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ストーカー
彼氏とのデートの帰りに、駅のホームで喧嘩別れをしてしまったFさんはその夜、ソファに座り仲直りのメール内容を考えていた。
途中まで打っては消す作業を何度も繰り返して、なんとか納得のいく文面が出来た。
さあ送信しようかと思ったその時、彼から電話が掛かってきた。
「なに?」
「お前な、いくら俺が憎いからってやめろよな!」
「なんのこと?」
「とぼけんなよ! 何か変な男が外から俺の部屋を見上げてんだよ! やめさせろよ!」
「あたし知らないよ? 警察に連絡したら?」
「お前が知らない訳ないだろ? お前の名前をずっと叫んでんだよ! Fを出せ! Fちゃんはどこだ! って!」
「なにそれ?! ホントに知らないよ! 早く警察呼びなよ!」
「……目が合っちゃったよ。お前知らないんだな? 警察呼ぶからな?」
「そうしな! 気をつけなよ!」
ハァ……
……何だが疲れた。
せっかく仲直りしようと思ったのにな。彼、大丈夫かな、変な事件に巻き込まれなきゃ良いけど。
でも何でその男の人は私の名前を知っているんだろうか。全然身に覚えがない。まさかストーカー?……だったら私も危ないじゃん。警察を呼ばれた事で逆恨みされると嫌だな。
色々と考えながら手持ち無沙汰のスマホをずっと眺めていると、やがて画面が暗くなり、自動ロックが掛かった。
暗転した画面に、Fさんと顔を並べて笑っている見知らぬ中年の男が映った。
「ぎゃっ‼︎」
Fさんはスマホを放り投げ、部屋を見渡したが、誰も居ない……
バチン!!
突然、ブレーカーが落ちた。
部屋が真っ暗になった。
(おばけ!!)
恐怖のあまり、急いで彼に電話をした。
「ちょっと! ねえ! なんか怖いの! お願い! 早く家に来て!」
「びっくりした? びっくりした? びっくりした? 次はクローゼットから出るよ! せーの!」
電話の声は彼ではなかった。
クローゼットがゆっくりと開く
Fさんは部屋を飛び出し、タクシーで実家に帰った。
男性不信に陥ったFさんは、今も実家で何かに怯えている。
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