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 今朝起きたらサトルは隣にいなかった。  既に出社してしまったのだろうか。昨日着ていたワイシャツがその辺に脱ぎ散らかしてあって、私はそれを拾い上げる。  サトルとは大学時代からの付き合いで、出会ってからもう6年だった。だらだらと恋人関係を続けている私達は、結婚の二文字を意識しても良い時期に差し掛かっているのだろう。  けれどもお互いに、そんなことは口にしない。  サトルの匂いがするワイシャツを、他の洗濯物と一緒に洗濯機に放り込む。キッチンへ向かいコーヒーメーカーに粉をセットすると、ぼんやり琥珀色の液体が落ちてゆくのを眺めた。  今日は休みだ。サトルがカレンダー通りの仕事ではないから、なかなか休みが合わない。もし結婚や同棲でもしていれば、一緒にいる時間がもっと長くなるのであろうとは思う。  なんだかいつもとどこか違う、頭がぼんやりとした休日だった。空気を入れ替えようとベランダの窓を開けると、さわやかな薫風が部屋の中に流れ込んできた。良い季節だ。少しだけ気持ちがしゃっきりする。  窓を開けたままコーヒーと遅い朝食を胃の中に収めているうちに、洗濯機が終了の合図を告げた。それをベランダに干す為に私は立ち上がる。  ──ひやりとした。  洗濯機の傍で、何かが視界に入った気がした。それは日常生活には不要なもので、けれど見たことがないかと言えばけしてそんなことはない。見覚えは勿論ある。  見間違いであることを祈りながら、私は違和感の主へそろりと近づいた。  指だ。  何故そんなものが私の部屋に落ちているのかわからなかった。もしかしたらサトルのいたずらで、精巧に作られた偽物である可能性もある。けれどそんなことをして何になるだろう。今日はエイプリルフールなどではない。  じっとそれを見つめる。やはりそれは指だ。恐らくは右手の小指。見た印象やサイズから、男性のものではないかと推測出来た。 「どうしてこんな……」  心臓がぎゅっとした。  血管の存在が急に身近になった。とても嫌な感じがした。  まさか、これはサトルの……。  昨日会った時にはサトルは怪我などしていなかったし、まじまじと見たわけではないが手指は揃っていたように思う。小指を落としたのがサトルだったとして、それを私に言わないわけがない。  他に異変がないか、きょろきょろと部屋の中を見回す。そしてベランダの窓が開いているのが気になり、一旦閉めに行こうとそちらへ向かった。
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