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翌日。
結局昨夜全てを投げたためになにひとつ解決しなかった問題を抱えたまま、アグニカは学園の入学式へ臨んだ。
「おはよう、エ…どうした?顔が暗いぞ」
「えぇ、おはよう、ジン。大丈夫よ。少し考えごとをしていたの」
「そうか、なら良いんだ」
挨拶早々、心配をしてくれるジン。
やっぱりそうやって笑ってくれるそこ顔を守りたいと思う。
それと王妃ということはやっぱり違うと思うのだけれど。
「おはようございます、アレクシオ様。アグニカ様」
「ああ、おはよう。セルダ」
「おはよう、セルダ…あら、ジークは?」
彼はセルダ・ロック・サレム。
ジンに仕える護衛騎士の1人。
ジンが重宝し、信頼している人の1人で私も昔から知っている。
同年代の中で一番の剣の腕を持つ騎士。
彼に敵うのは今私の隣にいるジンか、
「ジークですか?彼は今例の特待生の護衛任務を預かっています。もうすぐ特待生を連れてやって来ると思いますよ」
話の中で出てきたジークだけ。
ジーク
本名、ジーク・モンド・エリオスはセルダと同じくジンの護衛騎士。
中流貴族から実力で上がってきた人物で、媚びない性格から彼もまたジンに信頼されている。
「そう言えば、その特待生のことなのだけど。今までは特待生を受けた生徒は1人だけなのでしょう?」
「やっぱりエルも気になるのか?」
「えぇ、そうですね」
ジンに同意するように頷く。
そう、件の特待生。
この学園が創立されて数百年。
この数百年の間には優れた実力や並外れた能力を持つ平民を伸ばすために貴族しか入れない王立学園に入学させることがある。
この特待生に選ばれた平民にはさまざまな伝説があり、
曰く、
御伽噺にあるような魔法を使えた。
未来を見る千里眼を持っていた。
更には、その当時誰も思いつきはしなかった植物紙の生産など、多くの逸話が残っている。
また、そのような逸話がなくとも、身分違いの恋を成熟させたという話が多い。
貴族との恋や、王族と平民との恋が実ったという話まである。
そんな特待生が今年、この学園に入学するという。
「2人の特待生…今まで1人だった特待生を今回は何故2人に…?」
「今年、いやこの3年間。なにかが起こるだろうな」
そう、"2人"。
2人の特待生が今年、入学する。
「!…アレクシオ様。来ました」
特待生です、とセルダがいうのを聞きながら、私は。
「…」
ジークに先導される特待生のうち、ただ1人を見つめるジンを見ていた。
入学式のあと、学力別に振り分けられたクラスごとに集まり教室へ移動する。
王族として教育を受けたジンはもちろん、その王妃として育てられた私や、護衛のセルダやジークも1番上のクラスに振り分けられた。
それは特待生も同じで。
2人とも高価なもので飾られた教室がもの珍しいようで辺りを見渡している。
1人は目をキラキラとさせ楽しそうに。
もう1人は顔を青くしておっかなびっくりと言ったように。
多分、周りのものが高価すぎて怖いのだろう。
アリス・エニーシャ。
平民の出身のだったが、父方が上位の貴族であると判明したらしくまた聡明なため、この学園に入ることが決まった特待生。
彼女がいうには、いつかの特待生のように千里眼を持っているらしい。
もう1人は、シド・サリス。
こちらは完全に平民で、自分の実力で特待生を勝ち取った文字通りの特待生。
思い思いに周りを見ている2人にジンが声をかけた。
「君たちが特待生だろう?知っているだろうが、俺はアレクシオ。この国の第1王子だ。そして後ろに控えているのが護衛騎士のセルダ。君たちをここまで連れてきてくれた彼はジーク。彼も俺の護衛騎士だ。そして、隣にいるのはアグニカ。彼女は俺の婚約者なんだ。これからよろしくな」
「セルダ・ロック・サリムです。よろしくお願いします」
「ジーク・モンド・エリオスです」
「アグニカ・エル・ウォーブルグです。よろしくお願いしますね」
「アリス・エニーシャです!よろしくお願いします!!」
「し、シド・サリスです。よろしくお願いします…」
元気よくそう言うアリスとは裏腹におずおずというシド。
よろしく、と言ったジンは相変わらず気づかれないようにしながらもある一点を見つめている。
「…アレクシオ様?どうかなされましたか?」
「っああ、いや。なんでもない」
何かを感じたのか声をかけるセルダへの返答をよそに、私はある考えが浮かんでいた。
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