月の光

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 「おい五条(ごじょう)。お前西園寺(さいおんじ)さんフッたってほんとか?」 俺の所属する自転車部の同学年、東堂(とうどう)が自転車を引きながら大声で聞いた。 「あぁ」  「マジかよ! うおっ」 左のローラー(三本ローラー。室内でロードバイクのトレーニングをする器具のこと)に乗っていた園田(そのだ)がバランスを崩したがすぐに体制を戻した。それを見届け、東堂が俺の右側のローラーに乗った。  「大丈夫か?」 「あぁ。それより本当なのか? 五条」 「あぁ」 「西園寺さんってあのミス明南の……」  「あぁ」 「えっ、何でふったの?」 園田に聞かれて、俺はローラーに乗ったまま応えた。  「今は自転車の事しか考えらんねぇってふった」 「そっかぁ……まぁ、インハイ(インターハイの略称)出たお方だもんなぁ」  「うるせぇ、お前らもだろうが」  俺がそう言うと、まぁね。と園田が笑った。 「西園寺さんも見る目がないなぁ、どうせ思いを告げるならこの俺に惚れてくれればよかったのに……」 「へぇ、東堂は付き合うんだぁ」 「いやふる。だが、五条より美しくな」 「もてる男は違いますなぁ……」  園田が笑って言うと、東堂は聞いた。 「園田はそんなにもてんのか?」  「いやみかよ」  「あれだな、男にもてるタイプだなお前は。そうだ、男と付き合えば良いじゃねぇか!」 「いや、それはないっしょ」 と、二人は笑った。俺も笑った。が、何故か胸の奥が少し痛んだ。  その日の帰り、あいつに会った。あいつは俺を見つけると笑って軽く会釈した。俺はそっとあいつの近くでエレベーターを待った。  「僕は、2年の冴木 洸治(さえき こうじ)。君は?」  「俺は2年の五条 慎一(ごじょう しんいち)だ」  「そっか。よろしくね」  「あぁ、よろしく」 するとエレベーターが1階に降りてきた。俺とあいつ、冴木はエレベーターに乗り込んだ。中には俺達だけだった。  「冴木はなに学部?」 「法学部だよ。五条君は?」 「工学部だ」 「そっか」 どうりで学校で会わないはすだと思いながら、俺は扉の上の一つずつ光る数字を眺めた。  「じゃあ、またね」  「あぁ、また」  5階で降りる冴木を見送り、俺は6階の部屋へ帰った。  冴木のことがもっと知りたい。と、只漠然とした興味だけあった。
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