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「法学部の冴木? あぁ、あいつかぁ……」
自転車部専用のロッカールームで、俺は法学部の園田に聞いた。
「あいつは音楽の何かですげぇ賞をとったらしいぞ。あと、近いうちコンクールで賞を取った人達だけが演奏するコンサートに出るんだってさ。でも何で?」
「あぁ。マンションが同じでな、よく見かけるんだ。この間名前聞いたから、どんな奴なんだろうってな」
「そっか。連絡先知ってるから、もしなんかあったら言えよ」
「連絡先知ってんのか」
園田の社交性には驚いた。が、園田はきょとんとして言った。
「まぁ、一応な。でもお互い部活やら音楽やらで忙しいからさ、講義とか以外はあんまり喋ったことねぇかな」
「そっか。ありがとな」
「おう」
連絡先は本人から聞くことにした俺は、ロッカールームを去った。
マンションの入口で、冴木が女と話していた。俺は軽く会釈してそっとエレベーターのボタンを押すと、少しして冴木が一人で俺の隣にきた。
「……彼女か?」
「違うよ、音楽サークルの子。来月のコンサートの事話してたんだ」
「へぇ」
「よかったらおいでよ」
冴木は鞄から小さな紙を差し出した。俺はそれを受け取り、何となく聞いた。
「恋人はいねぇの?」
「今はいない」
「へえ」
エレベーターが1階に降りてきた。俺達はそれに乗った。この時間はだれも乗り込まないらしく、また二人きりだった。
「五条君は?」
「いねぇよ。先月別れた」
「うわっ、そうだったんだ……ごめんね」
「いいよ。もう気にしてねぇし。それより、お前も前にいたんだな」
そりゃいるわな。とぼそっと付け足すと、冴木が光っている4と5の間の点を見て言った。
「うん、いたよ。男だけどね」
「えっ」
冴木は5階で降りると、振り返って俺をみて言った。
「軽蔑する?」
どこか悲しそうに笑って、冴木は去っていった。俺は部屋に戻って、冴木からもらったコンサートのチケットを眺めた。
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