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コンサートで冴木が演奏する番が来た時、アナウンスが流れた。
「プログラムには次の曲はショパンのエチュード 木枯らしとありますが、ドビュッシーの月の光に急遽変更いたします」
そのアナウンスが終わると、冴木が出てきて一礼をしてピアノの前に座り演奏した。音楽の事はさっぱり分からないが、きれいで優しくて、どこか悲しかった。
コンサートの最後、時間が余ったらしく、アナウンスが流れ、プログラムにあった木枯らしって曲をを冴木が演奏した。
コンサートが終わってから、俺は会場の出入り口で冴木を待った。
冴木はゆっくり近くの背の高いポール灯に近寄り、街灯の多い道を探していた。
「お疲れ、冴木」
俺が声をかけると、冴木はこちらを向いて、目を凝らして言った。
「五条君?」
「そうだ」
俺は灯の当たる所まで近寄った。すると冴木は笑って言った。
「ありがとう、来てくれて」
「すげぇな」
「ありがとう」
「けど、何で曲を変えたんだ?」
俺が聞くと、冴木は力なく笑って応えた。
「君からの告白の答えだよ、五条君」
「わりぃけど、俺は音楽とかよく分からねぇから、言葉で教えてくれるか?」
すると冴木はうつむいて応えた。
「僕も、君が好きだよ。でも、男同士って変だし、軽蔑されるし……僕はいいけど君までそんなこと思われる必要はないよ。だから、その……」
「俺は軽蔑されてもいい」
「えっ……」
「冴木が好きなんだから、しょうがねぇだろ」
すると冴木は俺に抱きついた。
「ありがとう、五条君」
そして冴木の手を握って、街灯の少ない近道を通ってマンションへ向かった。
マンションに着くと、手を離して5階で降りた。そして冴木の部屋で、冴木と一夜を共にした。
「男同士は初めて、だよね? 怖かったら無理しなくていいよ」
と冴木が言っていたが、身体も心も冴木を欲していた俺は、冴木に教わりながら抱いた。
女とする時にはなかった違和感はあったが、冴木と繋がれた事で、俺の身体と心は満たされていった。
「何で、月の光なんだ?」
冴木のベッドの上で横向きで寝転がって聞いた。冴木は身体を俺の方へ向けて寝転がり応えた。
「停電した時も、さっきの帰りも、真っ暗な中で五条君の手だけが頼りでさ。なんかその手で明るいとこまで連れてってくれるから、僕にとっての光だなって思ってね……」
「そっか」
「他の曲もあったんだけど、答えとは違うかもなって思ったから」
「そうか」
音楽はよく知らないが、これから冴木が奏でるものはどんなか聞きたくなり、次のコンサートの曲を聞いてみた。まだ決まってない。と笑う冴木にキスをして、俺は眠りについた。
簡素な寝室に、月の光だけが差し込んでいた。
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