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「お母さんは どうして僕の絵を見てくれないんだろう・・・?」
「お前は 見てほしいのか?」
「うん。だってすごく上手に描けたんだよ。学校の先生も 上手ね。お母さんに見せたら喜ぶわね。って ほめてくれて」
「子供の絵を下手っていう教育者はいない。奴らはたまに 嘘をつく。」
「じゃあ 下手なの?僕の絵・・・」
「どっちかっつうとな。皿の上に乗ってる唐揚げの形は嫌いじゃねーぞ。」
「・・・クッキーだよ」
「そうかそうかwww」
苦い香りがうっすら漂う口を開けて、下品に笑う姿は醜く、恐ろしい。子どもだからと言って、手加減も遠慮も優しさも無い。
それでも僕は、あの日からずっと狼・・・彼女に会いに来てしまいたくなるのだ。適当な理由をつけて、放課後いつも直行する。この時ばかりは、家のだれもが僕に興味を示さないことが救いだった。
「・・・破いたのか。破かれたのか。」
「・・・破かれた・・・」
「・・・そうか。」
僕の服が汚れていても、僕が傷を作ってきても、狼は「そうか」以上、何も言わない。最初に会った時みたいに、川をじっと眺めては時々目を細めている。僕も、何を言うわけでもなくて、ただ狼のそばにいた。
「・・・狼・・・さんは・・・」
「ん?」
「・・・死ぬのは怖くない?」
「死んだことがないのに答えられっかよ。」
「・・・そうだね・・・」
あと何日・・・僕は日にちを数えるようになった。それと同時に、僕は誰にもしてこなかった質問を狼に投げかけるようになった。
「・・・狼さんは・・・好きだった?」
「何が?」
「・・・お父さんとお母さんのこと・・・」
「目の前でぶっ殺されちまったからな。」
狼は、どっちでもないような答え方をした。
「お前は?」
僕は、黙って首を横にふった。
「お母さんのことも・・・お兄ちゃん達のことも・・・あまり好きじゃない・・・」
「そうか。」
狼は、いつものように川を眺めた。
「・・・殺してやろうか」
「・・・えっ・・・?」
僕は狼の顔を見上げる。初めて会った時みたいに、目がギラリと鋭く光っていた。
「母親の他に6匹もいるんだろ?お前をのけ者にするやつが。」
「・・・それは・・・」
「いずれお前に母親の介護を押し付けるぞ。」
「・・・」
「一生奴らの奴隷になるつもりか。」
「・・・それは・・・イヤだ・・・」
「だったら話は はえーだろ。」
狼の言葉には、静かに獲物を追い詰める圧迫感があった。
僕は、今朝早くできた蹄のアザを しげしげと見つめた。
「・・・・・・殺してほしい」
「そうか」
僕が絞り出すように吐き出した7文字を、狼は少しだけ重い「そうか」で包み込んだ。
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