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「お母さんっ!!」「怖かったよぉっ!!!」
鼻をつく液体を纏わせながら、憎い兄姉たちは揃って泣きじゃくっていた。
「私は警察を呼ぶ。あんた達、ここを動くんじゃないよっっ!!」
糸を切った母親は、木の陰に兄姉を隠すと公衆電話へ一目散に走っていった。
僕は、兄姉についていくふりをして道を戻った。
大きな黒いシルエット・・・息が細くなった狼は、ゆっくりと目を開けた。
「・・・いいのか・・・行かなくて・・・」
「・・・もともと、影薄いから」
「・・・そうか・・・」
ヒューッ・・・っと、狼は息を吐く。
「・・・のどが渇いたんだ。川まで連れて行ってくれ。」
「うん・・・」
僕は、よろよろと立ち上がる狼の脇を支える。少しだけツンとした匂いが立ち込める毛は、あの時と同じ煙草の匂いがした。
ウー・・・ウー・・・、唸り声がすぐ近くで聞こえるたび、僕の目頭が熱くなっていく。
狼も 僕も 何も言わなかった。
何も言わず、川のせせらぎを目指していた。
「・・・ここで下ろしてくれ」
僕が体から離れると、狼は膝から崩れ落ちる。ドサッと鈍い音で、青々とした草が潰れた。
「・・・狼さん・・・」
「・・・何だ・・・」
「・・・ごめんなさい・・・」
「・・・あたしな・・・」
息を絶え絶えとさせて、狼は仰向けに寝転がる。その顔は、苦しいながらもなぜか今までで一番優しく見えた。
「すっげー・・・今・・・いい気分・・・」
前が潤んでよく見えない。でも、僕の頬に毛深く温かい肉球が触れ、毛をゆっくりと撫でられる。
「・・・言っただろ・・・?仲間はいらないって・・・」
「・・・・・・」
「・・・きっとなぁ・・・ゲホゲホっ・・・お前は・・・自分が思ってるよりねぇ・・・すっげーいいやつっ・・・」
「・・・・・・」
何も言えなかった。
「さ、もうそろそろ時間だ・・・1人にさせてくれ・・・」
僕は、天を仰ぐ彼女を背に走り出した。振り返ろうとしても、体は言うことを聞かず離れていく。
バシャーンっ
弾ける音と共に、その大きなシルエットは消えていた。
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