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「ちゃんとした大人になれませんよ」
横Tの口癖だった。
そして、その言葉の向かう先には必ずと言っていいほど頼子がいた。
頼子は遅刻や忘れ物も多かったし、授業中ボーッとして窓の外などを眺めていることも多かった。まあ、今もそのままと言えばそのままなのだけれど。
その度に横Tに注意されては、「ちゃんとした大人になれませんよ」と言われていた。
僕は横Tの言うことは正しいと思っていたし、先生に歯向かうなんてことは微塵も考えていなかったけれど、何か変だなと思っていた。「ちゃんとした大人」の意味もわからなくて、違和感みたいなものがあったのは確かだ。
けれど、五年生の僕にはその違和感の正体はわからなかったし、頼子がもっとちゃんとすれば怒られないのに、とも思っていた。
でも、頼子本人は当時から頼子だったから、横Tの言うことをあまり気にしていない様子だった。
僕はそんな頼子が少し羨ましかったのかもしれない。
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