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「あ、にさんがろく」
また急に変なことを言い出した頼子は、いつの間にかブランコから降りてフェンス越しに公園の裏を見ていた。
「何が? 九九?」
僕の質問には答えず、頼子はスマホを取り出して写真を撮り始める。僕もブランコを降りて頼子に近づくと、頼子はその画面を僕に向けた。
「ほら、にさんがろく」
そこには公園の裏に停めてあった車の前側がアップで写っていた。
ナンバーは「23ー06」……なるほど、にさんがろくだ。
「へへ……見る? 私の九九車コレクション」
頼子のスマホには『九九車』というフォルダがあって、車のナンバーが写った写真が二十枚くらい保存されていた。その全部が確かに九九になっている。
僕はため息をつく。でも、嬉しそうな頼子を見ると、呆れたなんて言葉は出てこない。
「99ー81を見つけたときは、何か終わったような気がしたなあ。まあ、まだ全然集まってないんだけどね、かぶってるのもあるし」
あ、本当だ。『ごごにじゅうご』が二つもある。
「いいけどさ、頼子、これ誰かに見られたらすごい変な人に思われるよ? 画像フォルダが車のナンバープレートだらけって、怪しい人じゃん」
僕が言うと、頼子は「そうかな」と言って、また楽しそうに笑った。
もしここに高級車があったとしても、頼子が見るのはそのナンバープレートなのだろう。どこかのセレブが自慢気に高級車を見せて、頼子にがっかりされる様子を想像して、僕も何だか可笑しくなって笑った。
たぶん頼子が隣にいなければ、僕の人生には『つぶみ』も『九九車』もなかった。
僕はやっぱりどこかで少し頼子が羨ましくて、どこかで少し誇らしくもある。まあ、誰に誇れるとかそういうものでもないのだけれど。
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