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「ねえ、覚えてる?」
二人で飲んだ帰りに肩をたたかれて振り返ると、変な顔をした頼子の顔があって、僕は飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。
「つぶみ」
目と口をすぼめたような顔を作って、つぶやくように言った頼子に、僕は苦笑する。
「忘れるわけがないだろう」
僕が言うと頼子の顔はあっという間にほどけて、いつもの顔に戻った。
「やっぱり?」
そう言って無邪気に笑う頼子の横で、僕は黙って缶コーヒーを飲み干す。
僕たちは別に付き合っているとかではなくて、ただの幼なじみだ。
二十九になった今も子どもの頃から何も変わらず、ずっとこんな感じだ。
「ねえねえ、ひろくんもやってよ、『つぶみ』」
「やだよ。恥ずかしいから」
「だってほら、誰もいないよ?」
市街地を抜け住宅街に入ると確かに人通りも減った。二十時を回った今は暗くて、街灯の下でなければ表情なんてわかりはしない。
だからと言って二十九にもなった今はそんなに気安くできるものでもないのだ。『つぶみ』は。
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