ヴィシソワーズ

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「おいしいだろ?」 「はい」と返事する私に祐也さんは、 またもやうっすらと笑みを浮かべた。 「ヴィシソワーズ……か」 もう一口。 するりと滑らかな冷たいスープが 喉を通り過ぎる。 あぁ……じゃがいも そう思うのと同時に 薄口のコンソメポテチ……。 どこかでチラつく。 滑らかなミルクの風味のマッシュポテト……。 私が育った環境で、飲んだ事がまず無い ……。 マジで、新食感だ。 ……と言うか、久しぶりに 食べ物の味を深く感じた。 うん 本当に久しぶりに……。 ふわりと目の前に浮かぶのは 四ヶ月前の四月の事。 散り出した桜の花の淡い桜色。 遅れて咲き出した八重桜の深い桜色……。 すれ違って離れてしまった好きだった人の 茶がかった瞳と太陽のような笑顔と……。 今は襟足が隠れるほどの髪の私。 好きだった人の事忘れるために切った髪。 そこから、仕事に実業団での勝ち数あげるために、『食べること』は、『生命維持』 『体力増強』のものとなり、 『おいしい』 そんな感覚をすっかり忘れていた。
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