0人が本棚に入れています
本棚に追加
……医療スタッフによる検査は、思ったよりも長く続いた。
そして、結論から言えば、原因不明の不調だということだった。ただ、あの状況から考えると幻肢痛の逆――「無いものをあると錯覚する」のではなく、「あるものを無いと錯覚する」状態なのではないか、ということだった。自分の意志で動かすこともできなければ、どうも触覚や痛みもなくなっているのだという。
目に見えていて、肉体として存在しているけれど、意識の中では失われた右腕。その感覚をどうすれば取り戻せるのか、はっきり言って想像もつかないということだった。時間経過で取り戻せるのか、それとも一生戻らないのか。それもわからない。
Xはその話を聞いても少しも動じた様子を見せなかった。だらりと垂れ下がった右手を左手で触れた、くらい。
「回復するまで、休んでもらった方がいいかしらね」
片腕が動かなかろうが『潜航』はできる。できるが、今までのようにはいかなくなるのは確かだ。特に、意識の上での利き腕を失ったとなると、色々と不便は多いことだろう。回復の見込みがわからない以上、もはや代わりのサンプルを用意して『潜航』させるなどした方がよいのではないかと、思ったのだ。
けれど、Xはじっと、どこか訴えるように私を見上げてみせるのだ。
「何? 発言していいわよ」
「やらせて、ください」
「X……」
最初のコメントを投稿しよう!