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「右腕が使えないなら、左腕を使えばいい、だけです。役に立てないと判断した時点で、切り捨てていただくのは、構いません、から」
だから、どうか、と。
それはXには珍しい「懇願」だった。Xが自ら何かを望むのは初めてだったかもしれない。けれど、最初に。Xに初めて出会った時に言っていたはずだ、『力になれるなら』と。本当にその言葉を、愚直なまでに守ろうとしているとしたら。
「無理はしなくていいのよ。私たちも別にあなたに無理をさせたいわけじゃない」
「無理をしているつもりはありません。ただ」
「……ただ?」
「私には。……もう、これしかないので」
ぽつり、と言葉を落としたきり、Xは俯いたまま黙り込んだ。
これしかない。確かにそうなのだろう。Xの未来は閉ざされている。それは私たちに関わっても、関わらなくても同じこと。ただ、今現在のXにとっては私たちの存在が唯一「何かに関わる手段」であるのだろう。
果たして我々のプロジェクトがXにとってどのような意味があるのか私には想像はできない。しかし、いつの間にか、これがXに「懇願」させるだけのものになっているということだけは、わかった。
「わかったわ。次の『潜航』で判断する。それでいいわね」
Xは俯いたまま一つ頷いた。
私はそれ以上は何も言わずに、Xに背を向けて部屋を出ようとして……、振り向いてXの様子を見る。Xは俯いたまま、動かなくなった右手を左手で握りしめていて。
そこから、私がXの思いを読み取ることは、ついぞできなかった。
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