軋み音

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 それから怪物は、待ちきれない、というように、ピンク色の舌で、赤く開いた口の周りをぐるりと舐めた。  にやりと笑ったようなその怪物に向かって、ジョージは驚いた様子もなく言った。 「まだだ。もうすぐだから、おとなしくしてろ」  怪物は笑ったような顔のまま、棚の上の空っぽの、青のペンキの缶に尖った爪の生えた手をかけ、縁をまたぐと、そろりとその中へ消えた。  きいきい、は止んだ。黒々としたガレージの空気をかすかに震わせているのは、ジョージの呼吸だけになった。  ジョージが部屋へ戻ると、エレンが眠たそうに、たいして興味もなさそうに尋ねた。 「何だった」 「風でガレージのシャッターが揺れてた」 「直して」 「わかった。今度、見てみるよ」  エレンはジョージの暖かく柔らかいウールのような言葉に、いつも冷たい氷筍しか返さない。「週末はどうせラリーとゴルフでしょ。口だけ男。ほんと役立たず」  ジョージはベッドにもぐりこみ、最後に妻から感謝の言葉を聞いたのはいつだったろう、と思い出そうとする。  背中合わせの彼女は、すぐにいびきをかき始めた。    また音がする。  きいきい。ききい。  また待ちきれず、怪物が鳴いている。  まだだ。  けれど、もうすぐだ。  ……ええ、今朝、私とラリーを見送ってくれました……私はずっとゴルフ場で……訪ねた妻の友人たちが、返事がないので通報を……ガレージに血だまりがひとつ……たぶん買い出しのために彼女はガレージに……ああ、お願いです、妻を必ず見つけてください……。  ジョージは唇を一度ぐるりと舐めた。  もうすぐだ。  もうすぐ、このベッドの隣は空っぽになる。
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