軋み音

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 ベッド脇のガウンに袖を通し、ベッドサイドテーブルから懐中電灯を取り出す。「じゃあ、行ってくる」  ベッドの中から聞こえたのは、気を付けて、の声ではなく、早く行きなさいよ、と言いたげに鼻を鳴らす音だった。  きいきい。ききい。  きいきい。ききい。  ジョージは廊下の灯りをつけ、階段の灯りをつけ、リビングの灯りをつけた。  その灯りに、こざっぱりと整頓された部屋が、壁にかかったいくつものパッチワークのタペストリーが、棚の上の子供たちの写真が浮かび上がる。  パッチワーク。  ――これを仕上げるのに、半年はかかりましたの。  エレン主催のお茶会に呼ばれ、しぶしぶ付き合いで顔を出したご婦人方を前に、早く帰りたい彼女たちの顔色にも気がつかず、得意気にここの模様合わせはどうで、ここの縫い目はこうで、と熱弁を奮う彼女の姿を思い浮かべる。その場をゆっくり立ち去りかけたジョージにエレンは言う。「ね、ジョージ!」  ジョージは答える。  ほんとにすごいもんですよ、一人で全部やってのけるんですから、尊敬します……。  子供たちの写真。  遠く離れて住む子供たち。最後に全員で写ったのはいつだったろう。「パパには悪いんだけど……忙しくて……ごめんね」  なぜ、子供たちがめったに家に顔を出したがらないのか、ジョージには想像がつく。  子供たちのその横に、1枚の古びた写真。  この二人、誰だろう、とジョージは思う。男女が、幸せそうに笑みを浮かべ、タキシードとウェディングドレスを身に纏い、頬を寄せ合っている。  知らない、二人だ。  写真から目を逸らしたジョージの耳に、また音が響いた。  きいきい。ききい。  きいきい。ききい。
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