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ジョージは、玄関脇のガレージへと続くドアをそっと開け、壁にある電灯のスイッチを探った。
少し前から調子が悪かったが、今日はどうだ。
かちりと動かした。反応がない。
きいきい。ききい。
きいきい。ききい。
音は、はっきりとガレージの中から聞こえる。
ジョージは懐中電灯のスイッチを入れた。暗闇に、丸い光がガレージを照らす。
妻のテスラ・モデル3の横に、夫のシボレー・マスタング。
彼女の声がまた響く。
――いいかげん買い替えなさいよ。燃費も環境にも悪い。
いつか勝手に売られるかもな、とジョージは思う。まさかそこまで。いや、やりかねない。車もこの家も、全部彼女名義。別れたら、全部彼女のもの。
……週末、お茶会の買い出しのときにしか使わないテスラも売っちゃったら。
そうジャブをかまそうものなら、その百倍はボディーブローを返して寄こし、最後はノックダウン。
ロマンス小説のヒット作連発でお金がたんまりの彼女に、落ち目のホラー作家は抗う術がない。
きいきい。ききい。
きいきい。ききい。
ききいいいいいい。
ジョージは懐中電灯の灯りを、車からぐるりとガレージ全体に滑らせた。何度か光がガレージを往復したところで、彼はぴたりと手を止めた。
丸い灯りに照らし出されたそれが、一声鳴いた。
きい。
それは一見、ガレージの棚からぶら下がる大きな蝙蝠に見えた。
けれどもそれは、懐中電灯の弱い光をはね返すようなぎらぎらと輝く金色の目でジョージを見つめ返していた。頭からは太く短い角が生え、顔の真ん中には鷲鼻がのっていた。黒々と体を覆う長い毛は、周囲の暗闇と輪郭を曖昧にし、それが闇から生まれたことを物語っていた。
薄く開いた赤い口の中に、鮫のようにするどく尖った歯が数えきれないほど覗いた。その口で、その怪物は嬉しそうにまた鳴いた。
きい。
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