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きいきい。ききい。
きいきい。ききい。
「何の音?」
最初にそう言ったのは妻のエレンだった。ベッドでもぞもぞと動き、少し顔を傾け枕元のスマホを見て、大きくため息をついた。「……3時」
雲が空を覆っているのか、それとも月齢が浅いのか、カーテンから差し込む月明かりもない暗闇の部屋で、妻に背を向けて寝ていた夫は、その声よりも先に目を覚ましていた。
夫もその蝶番が軋むような音を、暗闇の中じっと身動きせずに聞いていた。
「ジョージ。ちょっと、起きて」妻が夫を呼んだ。
ジョージは躊躇した。寝たふりをきめこもうか。答えればきっと厄介ごとを頼まれる。 妻が自分で起き上って、音の正体を確かめにいくはずもない。
けれど彼は、今週末すんなりゴルフに出かける為には、今は妻の『要請』に応えていたほうが無難だ、と考えた。
たった今目を覚ました風を装って、彼は言った。「……どうした?」
「何か変な音がする」
「そうかな」
「聞こえないの?」エレンの口調が、責めるようにきつくなった。「するってば」
「風で何かが動いてるんだろ。気にしないで寝たら」
ジョージは妻の口ぶりに同調せず、穏やかに答えた。
それをエレンは、夫が自分の意見を軽んじた、と捉えたようだった。午前3時などお構いなく、苛立った彼女がいつもするように、短い言葉で夫に命令を下した。「見てきて」
「今?」
「今。気になって寝られない」
君が起きて、見てくればいいじゃないか。
……それは、言えない。
「じゃあ、見てこようかな」
ジョージはベッドからそろりと這い出した。
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