ドアの向こうのカルラ

3/5
前へ
/5ページ
次へ
 ***  話は、そこで終わらない。  なんとなく想像つくだろう?――似たようなことが、これから毎日続けて起きるようになるんだ。  俺が仕事の合間に、結婚してすぐ妻と一緒に行った海外旅行の写真を整理してた時。娘が帰ってきて、同じようにふらふらしながら自分の部屋に戻っていったんだよ。俺は今度もぎょっとさせられて、思わずアルバムを放り投げて娘の部屋まで走ったさ。今度は、彼女は下顎がなくなり、腹に大穴があいた姿で戻ってきたんだから。喉の奥は丸見えだし、腹からは内臓がはみ出しているしというとんでもなくグロテスクな姿。それで黒い血みたいなものをぼたぼた垂らしながら歩いてくるんだから、たまったもんじゃない。 「おい、何があったんだ!ここを開けろ、おい!」  俺はまたしても彼女が部屋に入るまでに間に合わず、鍵のかかったドアをドンドン叩くことになるのである。するとまた、ドアの向こうから声がするのだ。 「お父さん、煩いって言ってんだけど。着替えるんだから絶対ドア開けないでよね」  そんなことが、何日も続いた。  その次の日は、片足がない姿でケンケンしながら家に帰ってきた。  その次の日は、首そのものがなかった。  そのさらに次の日は、下半身が捻じれて逆向きにくっついていた。  その次の日は胸の肉が削がれて肋骨がむき出しの姿で――とまあ、そんな具合で、毎回どこかしらが欠損した惨たらしい姿で帰宅するようになったのである。  そのくせ、振り撒いた血らしきものは俺が駆け寄ると消えるし、ドアの向こうからはいつも通り元気な(といってもかなり不機嫌だが)声が聞こえてくる。翌日になれば体も全部元通りになっている、という具合だ。  俺はこう思った。さてはあいつ、自分に嫌がらせしてやがるな?と。そもそも腕やら足やらがちぎれた人間が元気なはずがない。幻覚ではないのなら、あいつが学校で何か特殊メイクでもしてもらって、それを使って俺をびびらせに来てるとしか思わなかったんだ。いや、それもそれで“中学生がそこまでするか?”って疑問はあるんだけどな。その時の俺は、そういう風にしか思えなかったんだよな、何故か。  こうなったら、証拠を突き止めて、何が何でも娘に説教してやらないと気が済まないと思ったわけだ。だからある日、彼女がボキボキに折れた両腕で帰宅してきた時。いつもの通り部屋に引きこもった彼女に向かって、ドアの前からこう言ってやったんだ!
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加