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「おい!俺をからかうのもいい加減にしろ!何なんだお前は、毎晩毎晩……!そんなに俺に“お帰り”って言われるのが嫌か!?ただいまを言うってだけでそんなに面倒なのか!?ここを開けろ、ちゃんと話くらいしたらどうだ!!」
ドアをドンドン叩きながら叫ぶと、ドアの向こうからは相変わらずかったるそうな声が返ってくる。
「お父さんうざい。邪魔しないでって言ってるじゃん。私、忙しいんだけど」
「真面目な話をしてるんだぞ、こっちは!」
「お父さんが挨拶しろってうるさいから、こっちもいろいろやってるんじゃん。そんなの大事でもなんでもないでしょ。ほっといてくんない?迷惑」
「ふざけるな!ここブチ破るぞ?」
「好きにすれば?どうなっても知らないけど」
「はあ!?」
どういう意味だそれは。俺は本気でドアを開けてやろうと考えて、リビングに戻った。財布から十円玉を取ってくるためだ。我が家の室内の鍵は、外側からでも十円玉を使ってツマミを操作すれば、鍵を開けられる仕組みになっているのである。ルール違反なので基本的にはやらないが、今回ばかりは致し方ない。
でも、俺が十円玉を持って廊下に出ようとした時、猫のキティが邪魔してきたんだ。
「うなああ!」
「な、なんだ!?」
「うなああ、なうなうなうなうなうな!!」
それは、初めて俺が聴くような鳴き声だった。まるで人間の声のような、とにかく警戒するような声だとでもいえばいいだろうか。俺のズボンのすそに爪を引っかけて、本気で俺を引き留めようとしている。
「おい、キティどうしたんだよ。あいつの部屋の前に行くだけだって、何そんな怒ってるんだよ!」
猫としてはかなり大柄なキティは、力も滅茶苦茶強い。このままではズボンがびりびりに破れてしまうのは明白だった。しばしキティを説得しようと、しゃがんで彼女の頭を撫でて話しかける俺。そうこうしているうちに、なんだかさっきまでの怒りがすーっと消えていくのを感じたのである。
無理にドアを開けても、より一層意固地になられるだけかもしれない。それよりも、妻に娘のバカみたいな行動を話して相談し、今後の対策を考えた方が建設的ではないかと思ったんだ。
「……ありがと。ちょっと落ち着いた。鍵開けるのはやめるよ。そうだよな、強行突破しても、いいことなんかないよな」
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