17人が本棚に入れています
本棚に追加
フレンチトーストの朝・5
バスルームから出て、せっかく着替えた服を私は脱いだ。制服のスカートの上に着ていた、腰丈のカーディガンのリボンを外す。彼に背を向けて座り、カーディガンを床に落とした。下に着ていたカットソーを頭から抜く。
後ろにいた彼が立ち上がり、部屋のカーテンを閉めた。突然訪れた薄暗闇に、私はびくりと体を震わせた。濡れた髪から、雫がぽとりと膝に落ちる。彼がバスタオルで私を包んで、その上から抱きしめてきた。
どくん、どくんと心臓がフル回転して働いている。逆に脳みそは全く動いていない。何も考えられなくて、私はただ、彼の腕の強さとタオルの暖かさを感じているだけだった。
「奈月……」
彼の声が耳元でする。息が耳たぶと首筋にかかって、ぞくりと背中に何かが走った。彼は後ろから私を抱きしめたまま、耳元で何かを言った。また英語だった。多分、この間言ったのと同じ言葉だ。耳に響く音が、同じような気がした。
「なんて言ったの?」
「勉強しろって言ったろ」
「教えてよ。教えてくれなきゃ、いつまでたっても分からない」
「性教育の実地教習」
「嘘」
髪をくしゃくしゃと軽く拭き、お役御免になったバスタオルを彼は後ろに追いやる。私たちの肌が触れ合って、触れ合ったところから熱を持っていくようだった。背中にある彼の心臓も、ドキドキと高鳴っているように感じた。
「約束通り、英語でトップだったから、続き、しようか」
「それって、お仕置き……?」
私が訊くと、彼は小さく吹き出して、それまでよりもきつく私を抱きしめた。
「英語の成績と俺と、両方手にできるって条件だったのに、お仕置きってのも変だったよなあ、今思えば。どっちかってと、あの場で我慢した俺に対するお仕置きみたいだったしな。だから、あの時押し倒さずに、英語以外で全部一番になったエライ俺へのご褒美、かな? それか、奈月に英語教えた俺への報酬」
片手で私を抱きしめ、片手でブラジャーのホックを外しながら、彼は言った。
「今日は、下着可愛くないって言わないのか?」
「ん、だって、今日は」
家を出る時からこんな予感がしていて、私は今日はとっておきの下着をつけていた。上下おそろいのピンクの下着。びっくりするほど高くて、涙が出た代物だ。
彼はへえ、と言うと外したブラジャーをひょいと顔の前に持っていき、カップの部分に顔を埋めた。
「やだ、何してるのよ!」
「奈月の匂いがする」
「……ヘンタイッ!」
ムードもへったくれもありゃしない。
私は彼の方を向いて座りなおした。彼は私を膝の上に乗せ、私の腰に手を回して体を支えてくれた。
「ブラジャーより、こっちのほうがいい匂いだな」
私の胸の谷間に口づけながら彼は鼻をうごめかした。鼻先が胸に当たって、くすぐったくて私は身じろいだ。感じる? と彼は笑い、私の乳房に舌を這わせ始めた。
「あっ……あぅ……ぅんふっ……あ」
決して彼は私の乳首に触れようとしなかった。胸のふくらみ部分を舐め、唇で優しく噛み、吸い付き、脇から腰にかけての体の側面に手を這わせる。いくら我慢しようとしても、喘ぎ声が歯の間から漏れてしまう。
「我慢するなよ。気持ちよかったら、気持ちいいって言えばいい。奈月。可愛いよ」
言いながら今度は彼はスカートの中へ手を差し入れて、腰から足にかけてを今までのように撫でた。
素肌に触れられるたびに、味わったことのない刺激が体中を駆け巡る。熱を持った肌はピリピリといつも以上に敏感になり、彼のほんの少しの動きにも、私は声をあげてしまいそうになる。
「なんで我慢するんだよ。声、聞かせてくれよ」
「や……やだ」
必死で私は言った。
「なんで」
「だって……ぇ、駿ちゃん、なんて言ったのか、教えてくれてない」
「勉強しろって――」
「駿ちゃん」
冗談で混ぜ返そうとした彼の言葉を遮った。すると彼の手の動きが止まり、胸に埋めていた顔を起こして、彼は私を正面から見つめてきた。
薄暗い部屋の中、夕方の淡い太陽がカーテンの隙間から漏れてきていて、私たちをぼんやりと照らしていた。彼の顔に夕日が差し込み、いつもはきつい印象を湛えている瞳が、柔らかく優しく私を見ていた。
「――ガキの頃、初めて会った瞬間に、俺はお前に一目惚れしてた。それ以来ずっと、俺はお前を愛してる。これからも、永遠に」
そして彼は私の唇をふさいだ。ふさがれた唇の温かさと、抱きしめる彼の手の強さが、私の頭をショートさせた。目を潤ませながら、私は彼のキスを受けていた。
「クソッ、英語で言うなら平気なのに、日本語だとこっぱずかしいのは何でなんだろうな」
「それは駿ちゃんが日本人だからだよ」
恥ずかしがっている彼を笑ってやると、照れ隠しにか、彼は私を床に押し倒して、また深く口づけてきた。
「今のはなんだった? 奈月」
「……フレンチキス」
「正解。今日は我慢しねえからな」
スカートを脱がしながら、彼は言った。
最初のコメントを投稿しよう!