フレンチトーストの朝・5

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フレンチトーストの朝・5

 バスルームから出て、せっかく着替えた服を私は脱いだ。制服のスカートの上に着ていた、腰丈のカーディガンのリボンを外す。彼に背を向けて座り、カーディガンを床に落とした。下に着ていたカットソーを頭から抜く。  後ろにいた彼が立ち上がり、部屋のカーテンを閉めた。突然訪れた薄暗闇に、私はびくりと体を震わせた。濡れた髪から、雫がぽとりと膝に落ちる。彼がバスタオルで私を包んで、その上から抱きしめてきた。  どくん、どくんと心臓がフル回転して働いている。逆に脳みそは全く動いていない。何も考えられなくて、私はただ、彼の腕の強さとタオルの暖かさを感じているだけだった。 「奈月……」  彼の声が耳元でする。息が耳たぶと首筋にかかって、ぞくりと背中に何かが走った。彼は後ろから私を抱きしめたまま、耳元で何かを言った。また英語だった。多分、この間言ったのと同じ言葉だ。耳に響く音が、同じような気がした。 「なんて言ったの?」 「勉強しろって言ったろ」 「教えてよ。教えてくれなきゃ、いつまでたっても分からない」 「性教育の実地教習」 「嘘」  髪をくしゃくしゃと軽く拭き、お役御免になったバスタオルを彼は後ろに追いやる。私たちの肌が触れ合って、触れ合ったところから熱を持っていくようだった。背中にある彼の心臓も、ドキドキと高鳴っているように感じた。 「約束通り、英語でトップだったから、続き、しようか」 「それって、お仕置き……?」  私が訊くと、彼は小さく吹き出して、それまでよりもきつく私を抱きしめた。 「英語の成績と俺と、両方手にできるって条件だったのに、お仕置きってのも変だったよなあ、今思えば。どっちかってと、あの場で我慢した俺に対するお仕置きみたいだったしな。だから、あの時押し倒さずに、英語以外で全部一番になったエライ俺へのご褒美、かな? それか、奈月に英語教えた俺への報酬」  片手で私を抱きしめ、片手でブラジャーのホックを外しながら、彼は言った。 「今日は、下着可愛くないって言わないのか?」 「ん、だって、今日は」  家を出る時からこんな予感がしていて、私は今日はとっておきの下着をつけていた。上下おそろいのピンクの下着。びっくりするほど高くて、涙が出た代物だ。  彼はへえ、と言うと外したブラジャーをひょいと顔の前に持っていき、カップの部分に顔を埋めた。 「やだ、何してるのよ!」 「奈月の匂いがする」 「……ヘンタイッ!」  ムードもへったくれもありゃしない。  私は彼の方を向いて座りなおした。彼は私を膝の上に乗せ、私の腰に手を回して体を支えてくれた。 「ブラジャーより、こっちのほうがいい匂いだな」  私の胸の谷間に口づけながら彼は鼻をうごめかした。鼻先が胸に当たって、くすぐったくて私は身じろいだ。感じる? と彼は笑い、私の乳房に舌を這わせ始めた。 「あっ……あぅ……ぅんふっ……あ」  決して彼は私の乳首に触れようとしなかった。胸のふくらみ部分を舐め、唇で優しく噛み、吸い付き、脇から腰にかけての体の側面に手を這わせる。いくら我慢しようとしても、喘ぎ声が歯の間から漏れてしまう。 「我慢するなよ。気持ちよかったら、気持ちいいって言えばいい。奈月。可愛いよ」  言いながら今度は彼はスカートの中へ手を差し入れて、腰から足にかけてを今までのように撫でた。  素肌に触れられるたびに、味わったことのない刺激が体中を駆け巡る。熱を持った肌はピリピリといつも以上に敏感になり、彼のほんの少しの動きにも、私は声をあげてしまいそうになる。 「なんで我慢するんだよ。声、聞かせてくれよ」 「や……やだ」  必死で私は言った。 「なんで」 「だって……ぇ、駿ちゃん、なんて言ったのか、教えてくれてない」 「勉強しろって――」 「駿ちゃん」  冗談で混ぜ返そうとした彼の言葉を遮った。すると彼の手の動きが止まり、胸に埋めていた顔を起こして、彼は私を正面から見つめてきた。  薄暗い部屋の中、夕方の淡い太陽がカーテンの隙間から漏れてきていて、私たちをぼんやりと照らしていた。彼の顔に夕日が差し込み、いつもはきつい印象を湛えている瞳が、柔らかく優しく私を見ていた。 「――ガキの頃、初めて会った瞬間に、俺はお前に一目惚れしてた。それ以来ずっと、俺はお前を愛してる。これからも、永遠に」  そして彼は私の唇をふさいだ。ふさがれた唇の温かさと、抱きしめる彼の手の強さが、私の頭をショートさせた。目を潤ませながら、私は彼のキスを受けていた。 「クソッ、英語で言うなら平気なのに、日本語だとこっぱずかしいのは何でなんだろうな」 「それは駿ちゃんが日本人だからだよ」  恥ずかしがっている彼を笑ってやると、照れ隠しにか、彼は私を床に押し倒して、また深く口づけてきた。 「今のはなんだった? 奈月」 「……フレンチキス」 「正解。今日は我慢しねえからな」  スカートを脱がしながら、彼は言った。
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