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フレンチトーストの朝・7
彼が動くたび、私の中が軋みをあげる。快感というよりも鈍い衝撃が私の体を駆け巡る。
「いっ……いた……ァ。あ、駿ちゃ……ん」
「悪いな、我慢してくれ。これでもかなり優しくしてるつもりなんだ」
彼も苦しそうな顔をして、汗の粒を額に浮かべていた。ゆっくりと進んできた彼の腰と、広げられた私の腰がぶつかった。
「これで、全部。奈月の、一番深いとこで繋がってる」
何がなんだか分からずに、私はただ首を縦に振っていた。
「好きだ、奈月。ずっと、ずっと好きだったんだ。やっぱり、他の男には、渡せない」
今度こそ何も考えられなくなって、私は知らず涙を流していた。
「ああ、ごめん。もう、限界だ」
その言葉を合図に、彼はそれまでより何倍も早く、強く、激しく腰を動かし始めた。ふたりの肌がぶつかり合う音と、汗や私の蜜が混ざりあう粘着音と、ふたりの息だけが、聞こえていた。
ふたりの体から立ち上る熱で、すぐ傍のガラス窓が曇っていきそうだと思った。
くぐもった甘い匂いが、痛みと衝撃の中に僅かに感じる快感のようなものを引き出した。知らない世界へ連れて行かれるようで怖くなった私は、手を伸ばして彼の腕に触れた。
「なつき……ッ!」
余裕のない彼の声がしたと思ったら、彼の動きが止まった。そして、私のおなかの上に暖かいものが降ってきた。
なあにこれ、と虚ろな意識で私はおなかに吐き出された液体を、指ですくった。
「あ、おい。やめろよ」
後ろに手をついて息を整えていた彼が、慌てたように私を止めた。だがすでに遅く、私はすくった液体を、指になすっていた。
「わ。どろどろしてる」
「……あんまり素でそういうこと、言わないでくれ。それが、俺の精液、ザーメン」
「え!? や、やだぁ」
「やだじゃねえよ。傷つくなあ。やめろって言っただろ、俺は」
立てるか、と訊かれたので、無理、と首を横に振った。すると彼は立ち上がり、バスルームから濡らしたタオルとバスタオルを持ってきて、私の体を綺麗に拭った。自分の汗は、私の汗を拭ったそのタオルで軽く拭いていた。
「へ……。まだ勃ってやがる。元気だなあ、俺の息子」
「ばか」
彼に寄っていって、さっきと同じように先端に軽くキスをする。するとぴくりと息を吹き返したかのように、それはうごめいた。
「やめてくれ、奈月。お前がもう無理だろ。そんなことされたら、何度だって襲っちまう」
「え。む、無理、無理ですぅ」
「だから、やめとけ。嬉しいけどな」
逆に彼が私の額にキスをして、押入れの中のケースからTシャツを私に着させてくれた。大きなTシャツは、それだけで私のお尻を隠した。よろめきながら立ち上がり、それまで着ていたふたりの服をハンガーにかけて乾かす。
「かー、色っぺえなあ。お前が動くと、Tシャツの裾からケツが見え隠れして、いいねえ、そそるぜ」
「馬鹿なこと言わないでよ! スケベ! ヘンタイ! オヤジ!」
「最後のはなんなんだよ。てか、下着も着られないくらい、びしょびしょってか、奈月?」
「……誰のせいよ、馬鹿」
よろよろとバスルームに向かい、洗面所で下着を洗う。シャワーの水で濡れた分と、私の中から出た液体とで、ぐっしょりしていた。洗い終わって、見つけたハンガーにこっそりと干す。
バスルームを出ると、ベッドの上で寝転がりながら煙草を吸っている彼が見えた。イージーパンツだけ身に着けて、上半身は暑いのか裸のままだ。
体の中心がえぐられたような穴が開けられたような感覚と、ふわふわと足が地に着かない感覚と、そして歩くたびに襲われる痛みに、もうそれ以上歩きけなかった。
ふう、とため息をついて立ち止まると、彼が煙草を捨ててベッドから降りてきた。
「辛いんだろ。多分、明日も辛いぜ」
「えぇー」
がっくりするような情報を私に伝えた彼は、ひょいと私を抱き上げてベッドへ連れて行った。
「ま、明日もどうせ休みだ。ゆっくりしてればいいさ」
ベッドに横たえられ、私の隣に彼は横になった。
「奈月、頭、ちょっとあげろ」
言われるままにちょっとだけ頭を上げると、彼の腕が滑り込んできた。肩に手を置いて、彼は自分のほうに私を引き寄せる。
私の目の前に、彼の裸の胸があった。彼は私の髪を撫で、顔にかかっていた髪の一筋を後ろに撫で付けた。
「さっき言ったこと、覚えてるか?」
瞬時に、『初めて会った瞬間に、俺はお前に一目惚れしてた』と言った、彼の真剣なまなざしと声が甦った。嬉しさと照れが再び襲って、思わず照れ隠しに思ってもいないことを口にした。
「ん? どれのことォ?」
その瞬間、彼の眉がきゅっと釣りあがった。
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