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フレンチキスの夜・3
やがて彼はテーブルをどけて、私の前へにじり寄ってきた。
「奈月。ここは英語で?」
彼は自分の口を指差している。
「マウス?」
「じゃあここは?」
今度は彼の指が唇に移動する。
「リップ」
「……お前、英語じゃなくてカタカナでしゃべってるだろ」
図星だ。一体なんの勉強なのかわからないけど、これ以上難しいところの英単語なんて、分からない。教室で教師に指される時よりも緊張しながら、私は彼の次の動作を待った。
「なら、ここは?」
「きゃッ」
彼の指は私のセーラー服の胸に置かれた。胸が跳ね上がって大きな音を立て始める。
「バスト」
「セーカイ。なら、これは?」
言いながら、彼は私の腕を掴んで自分に引き寄せ、私の唇に自分の唇で軽く触れた。
「駿ちゃん……」
思わず彼の名前を呼んだ。すると彼は私の目を見つめて、にやりといつものように口の端をあげた。
「またその呼び名で呼んだな。よっぽど、お仕置きしてほしいんだろ」
ゆっくりと彼の顔が私に近づいてくる。薄く開いた赤い唇が、迫ってきている。
「目ェ閉じて」
「え……」
言われるまま、私は目を閉じた。見えなくなったけれど、彼の息と存在が感じられ、私の唇は彼の唇でふさがれた。
「んんッ」
「鼻で息しろよ、苦しいぞ」
ちょっと唇を離して彼は私にそう言った。それからまた唇が重なり、私の口の中へ彼の舌が忍び込んできた。
硬くすぼめた舌先で、私の舌をつついていく。じわじわと彼の舌先は私の舌を伝って、付け根に到達した。撫でるように付け根の部分をつつき、それから舌の裏の筋を舐めあげてくる。それはやがて私の舌先にたどり着く。すると今度は舌先を自分の舌で包み込んだ。
私は必死で彼の肩にしがみつき、言われたように鼻で息をして目を閉じていた。私の背中にあった彼の手が、私の腕を撫であげて手を握った。
「ん……」
私たちは手を重ね合わせ、指を絡めてお互いの手の平の熱を感じていた。喧嘩ばかりしているせいでゴツゴツとして傷だらけの、彼の手の甲に、指を這わせる。ぱっと彼の手が離れたと思った次の瞬間、彼が私を自分のほうへ引き寄せた。
私の胸が、彼の胸にくっついている。心臓の音が彼に伝わってしまわないかだけが、心配だった。
彼の手は背中から徐々に首筋を撫で、私の頭にうつってきて、そして緩やかに重なっていただけの唇が、強く深く押し付けられた。
「あっ……ぅ……ん」
びっくりして思わず口を離そうとした私の頭をぐいと掴んで、彼は自分の唇を押し付けてきた。唾液が絡む音がしそうなほど、私たちは何度も何度も唇を重ね合わせ、触れ合った。
やがて彼は私の舌を開放した。いつの間にか、私の舌は彼の口の中へ引き込まれていて、彼が体を離したことで、私は舌を突き出している形になっていた。
その差し出していた私の舌に、再び彼の舌が絡んできた。ふたりの舌の結合部分から、どちらかの――もしかしたらふたりの――唾液が伝ってカーペットに落ちた。
「これは?」
ぼんやりした頭では言葉が浮かばない。私はただ、首を振った。
「フレンチキス。奈月の唇は柔らかいな」
「駿ちゃんの口は、煙草の味がするよ。煙草、吸いすぎ」
「それが俺のキスの味だよ。また言ったな、奈月」
そして小さくついばむように、私の唇に何度も唇で触れた。
「これもお仕置き?」
「そう。今のは、バードキス」
「もっと欲しい」
こんなお仕置きなら、いくらもらってもいいよ、と惚けた頭で考える。
「ワガママだな、奈月」
「駿ちゃんにだけだもん」
「また言ったな、しょうがないヤツだ」
そして彼は英語で何かを言った。わからないよ! と胸を叩くと、その手を掴んで、そっと手の甲にキスが落ちてきた。
「今のがわかるようになるまで、勉強しな」
「教えてよ、何? なんて言ったの?」
しつこく訊くと、彼はまたもやにやりと笑った。今度を何を企んでいるんだろう。
「そんなに知りたいなら、教えてやるよ」
彼はまた私の胸に手を当てた。にこりと微笑んだかと思うと、いきなり彼は私を押し倒した。そしてセーラー服を手際よく脱がせていく。
期待と不安で私は胸を膨らませて、彼のやることを固唾を呑んで見守っていた。あっという間にセーラー服の上は脱がされていて、私はブラジャーとスカート姿で彼の部屋に横たわっていた。
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