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フレンチキスの夜・4
今日は可愛い下着じゃないのにと、どうでもいいことをこの期に及んで考えた。雑誌などで「勝負下着」という単語を見るたびに、馬鹿にしていたけれど、こうなってみるとやっぱりそれが女の気持ちなんだと、よくわかる。
どうせなら可愛い下着で身を包んでいる自分を見て欲しい、お気に入りの下着を好きな男の子に脱がせてもらいたい、という女心。
「下着……。可愛くないでしょ」
普通のベージュのブラジャーだ。ついでにいえば、下だって綿のストライプのパンツだ。ちっとも可愛くない。だってこんなの、想像してなかったもの。
「奈月が可愛いから、関係ないよ」
「でもォ」
「そんなに気に入らないなら、脱げばいいじゃないか」
すっと背中に手を回して、ホックをぱちりと外して腕から抜いてしまった。
「ほら。こうすれば、奈月の体だけだ。胸、隠すなよ。つーか、今度は胸小さいからとかなんとか言いだすんじゃないだろうな」
まさしく今、言おうとしていた言葉だった。先手を取られて何も言えなくなってしまう。
「小さくないから、安心して。十分だ。――じゃあ、始めようか、勉強」
「え? なんのこと?」
「さっき、あれ、俺は『俺の一番の得意科目は性教育だから、それを実地で教えてやる』って言ったんだ。知りたいんだろ? 教えてやるよ」
はめられた、と気づいたのは、彼のいつもの不敵な笑みを見た時だった。
彼が着ていたシャツのボタンを外した。あわせの中からは、彼の鍛えられた筋肉質な体が現れた。子供の頃は、よく一緒にお風呂に入り、一緒に眠った。その頃の彼の体とは全く違うものになっていた。大人なんだ、と私の胸は更に高鳴る。
「胸、隠すなって言ったろ」
シャツの袖から腕を抜きながら、彼は言った。それでも私が胸を隠していると、さっきほどいたセーラーのリボンを口にくわえ、私の両腕をまとめて上に引き上げて、リボンで縛ってしまった。
「やだ!」
「俺の言うこときかないからだな」
文句を言い続けた私の唇を、上から塞ぐ。口づけというような甘いものではなく、セックスの途中の一動作、というような感じのキスだった。私の口の中を舌でまさぐりながら、彼の大きな手は私の首筋を撫でている。
首筋から肩、肩から鎖骨、鎖骨から乳房、乳房から脇、脇から体の側面、と徐々に彼の手は下半身へ向かっていく。下半身はまだスカートで守られていた。スカートのウエストにたどり着くと、今度は彼の手は上にのぼってきた。下腹部、おへそ、あばら、胸の谷間。
撫でるというよりは、触れるか触れないかというぎりぎりのタッチで触れていく。くすぐったいと最初は思っていたその仕草が、途中からはもっと強く触ってほしい、と狂おしく願うまでになった。
「しゅ、駿ちゃ……ん、ぁあん」
「まあた言ったろ」
「こ、これは、なあに?」
勉強だ、と言った彼の言葉を逆手に取って、私は彼に訊いた。
「フェザータッチ」
身をよじらせたために、スカートはまくりあがって太ももが露になっている。可愛くない下着も見えてしまっている。恥ずかしくて足をすり寄せる。膝をたてて、ぐっと足をくっつけた。
そんな私を、彼は口に笑みを浮かべて見ている。余裕たっぷりの表情だ。
「しょうがないなあ、奈月。そんな格好したら、我慢できなくなるだろうが」
「や……やだぁ。駿ちゃん……」
「ほらな、またその呼び名で呼ぶ。それにそんな顔されて、我慢できる男じゃないんだぜ、俺」
閉じていた膝頭に手をおいて、ぐっと力を入れる。必死で抵抗するが、彼の力にかなう訳がない。少しずつ足がこじ開けられていく。
「奈月」
突然、驚くほど真剣な優しい顔で私を彼は見た。
「えっ?」
集中がそれた瞬間を彼は見逃さずに、私の足の間に自分の体を入れてしまう。
「ずるい!」
「何がだ。俺はお前の名前を呼んだだけだろ」
「でも、この体勢だったら、スカートも下着も脱げないもんね」
「なあ奈月。そんなもの、切ったって裂いたって、脱がせられるんだ。お仕置きなんだから、それくらいしてもいいかもな」
腰についていたチェーンの先にあるナイフを取り、刃をきらりと私の目の前で振ってみせた。びくりと私は震え、体はこわばった。
「なんてな」
にこりとまた彼は笑って、ナイフの刃をしまってベッドの上に放り投げた。
「ごめん、奈月。他の女ならともかく、奈月にそんなこと、するわけないよ。怖がらせてごめん」
「バカ! 怖かったんだから!」
「ごめんって。泣くなよ、奈月」
思わず涙を浮かべてしまっていた私の体を引き起こして、彼は自分の膝の上に私を乗せて抱きしめてくれた。
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