彼と彼のこと

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 帰って自分の部屋に入り、携帯を見るとメッセージが届いていた。帰った?という皐月からの文字。一瞬迷ったが、結局すぐに返信した。  ちゃんと帰ったよ。  携帯を持ったまま、私は両手で顔を覆った。  かなわないと思った。  私の小さな嫉妬では、かなわない。  それなのに、諦めきれない。  ただちょっと、かっこよくなってきた同級生と付き合おうと思っただけだった。でも彼の優しさに惹かれた。好きになってしまった。  何故もっと早く会えなかったのだろう。  興味本位で付き合ったりしなければよかった。  皐月が私の告白にオーケーしなければよかった。  皐月が優しくなければよかった。  手を繋いだりしなければよかった。  あんなに一緒にいなければよかった。  皐月のことを、こんなに知らなければよかった。  全部無くしたい。  今までのことをリセットしたい。  そうすれば、簡単なのに。  そうできればいいのに。  したくない。  もう皐月のことを消すことはできなかった。  嵐が終わった後、私は蓋をした。  無理やりに、溢れそうになるものを押し込め、蓋をきつく閉め、見ないようにした。そうして、うまくいくように祈った。  何度か友達に恋の相談をしたけれど、気の利いたアドバイスは得られなかった。私が核心に触れなかったから。  私たちは最後まで行った。  ただそうしただけだ。  それ以上、どこにも行けなかった。  私から、別れた。 「あの人って」  皐月に目を留めた彼が、私の手を握ったまま言った。 「男と付き合ってるっていう噂聞いたかも」  特に感想もないという言い方だった。  私は笑った。 「いいじゃん。そんなの、どうでもいいよ」  彼は関係ないという意味で取ったのか、そうだね、と言った。すぐに、次の休みにどこへ行くかを話し始めた。  彼の話に相槌を打ちながら、私は再び窓の外へ目を向けたが、もう皐月の姿はなかった。  そうか、二人はうまくいったのか。  そうだといい。
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