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それから少しの間、二人は外を見ながら考え事をしている様だった。
1週間前、桜庭さんは私を夏美と呼んだ。桜庭さんの話しだとお母さんが転勤したのは今の私と同じ歳…。雄作が言ってたお母さんの話しを聞いた事があるって?そんな事を考えていると、雄作の声がした。
「桜庭先生、そろそろ着きます」
雄作が桜庭さんに言った時。ミラー越しに見えた目は少し潤んでいる様に見えた。
車が門の前に着いた。
「俺、先生を呼んで来ます」
雄作が玄関に向かって走って行った。
「桜庭さん、着きましたよ?」
助手席のドアを開けて桜庭さんに話しかけた。桜庭さんは膝に肘を付き頭を項垂れて下を向いている。
「桜庭さん?」
私は小さい声で呼んだ。そうすると桜庭さんは大きく息を1回吐いた後、何かを振り切るかの様に顔を上げて私に笑いかけた。
その時、 その目を見た時、何か分からない感情が湧いた。
玄関が開く音がした。お母さんが恐る恐る門に近づいてきた。私は普通を装い桜庭さんに笑顔を向けて。
「桜庭さん、母が来ました」
桜庭さんはスッと車から降りて母の方を見る。
「お久しぶりです。先生…」
穏やかな笑顔を母に向け歩み寄って行く。
桜庭さんの背中越しに見る母の顔は成長した生徒を誇らしげに見る教師の顔で微笑みかけていた。
その顔は桜庭さんに何かを訴えている様に思えた。
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