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三人で不思議そうに顔を見合わせた。
その後、桜庭さんは雄作と目で何か話しているように頷いて、次に私に目を向けあの眼差しで微笑んだ。それを雄作が見守っている。何なんだろう…。
「お待たせしました。はい、これ運転手さんに渡してください。こんな遠い所まで来ていただいて…」とお母さんは桜庭さんにお茶のペットボトルを渡した。
「あと、これは桜庭君」
えっ?ジンジャエールを渡している。
「あっ・・・・すみません」
お母さんににっこり笑って頷いていた。
その時やっとわかった。桜庭さんの温かい眼差し、ジンジャエールの意味。私を夏美と呼んだ事、私は…私はどうすればいい?と、混乱している時、桜庭さんの声がした。
「じゃあ!本当に突然すみませんでした!あと、雄作君が作家デビューしたら4人で食事しましょう!」
お母さんは少し考えた後
「わかりました、楽しみにしてます」
と笑顔で返事をした。
このままじゃ駄目、行かなくちゃ!
「私、車まで!」
そう言って桜庭さんに付いて歩いた。そして背中に向かって小さな声で話しかけた。
「いつも欠かさずジンジャエールが冷蔵庫に入っていました。それはもしかしたら…」
そこまで言うと桜庭さんは振り返り微笑みながら。
「雄作君は任せなさい。立派な作家に育てるから・・・・それが君の幸せだよね?後…夏美先生の事宜しく頼みます」
私は涙を堪え頷く事しか出来なかった。
「またこれ冷やしておいてくれるかな?」
ジンジャエールを見つめてから私を見た。
その瞳は潤んでいた。
「はい!」
私の返事を聞き、桜庭さんは車に乗った。
桜庭さんを乗せた車が遠ざかるのを見送っていた。私はお母さんに言った。
「お守り、また冷やしておいてだって」お母さんはにっこり笑って頷いた。もう、教師の顔はしていなかった。車が見えなくなるのを待って私達は家に入った。
「お茶でものみましょうか?」とお母さんが言ったけど、私は首を振り、車に酔ったからと言って部屋に入った。一人になりたかった。
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