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部屋に入り灯りも点けず今日の事を考えた。下で二人の話す声がする。
「先生、俺いつか父と娘の絆をテーマに作品書こうかな?」
「そう」お母さんの静かな返事。
みんなわかっている。お母さんは勿論、雄作も、そして桜庭さんも…
お母さんはきっと道ならぬ恋をして愛する人を守る為、誰にも言わずこんな田舎に移り住み私を産んだ。そしてその人の夢を守る為、私の存在も教えなかった。今まで誰にも言わず…。でも桜庭さんの好きなジンジャエールをいつも冷やして…心の中では待っていたんだ。
窓から微かに射す月明かりを見ながら静かに涙が出た。それは悲しいのではなく、お母さんの強い愛情、桜庭さんの語らずとも包みこむ様な眼差し、言わずとも察してくれた雄作の優しさ。その三人の気持ちを私は静かに感じていた。
そして私が1週間前に見た桜庭さんの眼差しは世界で私だけしか感じ取る事の出来ない眼差しだったんだ。
そう、お父さんの…。
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