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桜庭庸介
俺は車に乗り込んだ。ミラーに映る三人が小さくなって行く。
「悪いな神田、こんな遠くまで、これ…」運転手の神田にペットボトルを渡した。
「ありがとうございます。先生、お疲れになったでしょう少しお休みください、着きましたらお呼びします」
「あぁ、ありがとう・・・・あのな神田」
「はい、先程の会話で察しはついております。先週あの場所で車を止めろと言われた時の先生はいつもの先生ではなかった。そして今週も…」
「そうか…少し休む」
俺は目を瞑り思い出していた。夏美を愛した18の時の事、突然いなくなった時の絶望の日々。
1週間前、毎週の打ち合わせの帰り道、男に絡まれている夏美そっくりな女の子を見た時、車を止めさせ思わず夏美と呼んでしまった。そしてもしかしたら今週もと期待をしながら見ていたらいたんだ。名前を聞いた時、動揺をした。夏美に会いたいと思った。
車の中で秋保の話を聞いた時、疑念が確信に変わった。ただ、夏美の顔を見た時、秋保にも言っていない夏美の気持ちは守りたいと…名乗り出ては行けないのだとわかった。秋保も雄作君も同じだろう…。
そしてもうひとつ…。それは俺に雄作君の作品を預けてくれた事、それは秋保が幸せになる為に、夏美が俺に父親の役目をさせてくれていたんだと言う事…。
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