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「そういえば肝心な事聞いてなかった。秋保さん、お家にお父さんもいるよね?ゆっくり休んでる所にいきなり行って大丈夫かな?」
私を見て、心配そうに聞いている。
「あっ!こいつ親父いないんで!」
雄作があっさり答えた。
「そうなんだ…。何か…」
桜庭さんは聞きにくそうにしているから答えた。
「産まれた時からいません。今も何処で何をしているかも知りません。それで小さい時はだいぶ母を困らせたみたいです。でも高校に入る時、ちゃんと聞きました」
「それで?」
何故か雄作が聞いて来た。
「そうしたら、お母さんは胸に手を当てて、『あなたのお父さんはここにいるから、私はあなたを今までも、そしてこれからも愛して行ける』と微笑んだ母の顔は今でも忘れません。母は父を本当に愛しているのだと…。その顔には誰も踏み込むなと言う母の強い気持ちが感じられました。それからは父の事は聞くのはよそうと思って来たので、今でも何も知りません」
ミラー越しに見た桜庭さんの目は少し遠くを見て何かを考えている様に見えた。
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