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私は母に手を引かれながら、ただ呆然とアスファルトに浮かび上がる自分の影を見つめていた。
何処に行くのだろうという疑問はあったが、不安は一切無かった。
大好きな母と一緒だったから。
駅に着いて生まれて初めて電車に乗った。
車窓からの景色が見る見る内に変わっていって、これから自分が知らない何処か遠くへ行くのだと思うと胸の高鳴りを抑える事ができなかった。
暫く電車に揺られていると東京の背の高いビル達はすっかり見えなくなって、代わりに山や畑等の緑豊かな田舎の景色が少しずつ顔を出してきた。
目的の駅に着くとそこは東京の駅とは違って人が殆どいなかった。
風の音や遠くで走る車の音がやけに響いていて、空が広くて、時間がゆっくりと流れていた。
その風景はのどかで心が落ち着く反面、人の社会から置いてけぼりにされてしまったような寂しさも感じさせる。
駅の入り口に停まっているタクシーが哀愁を漂わせ孤独に見えたのはそのせいだろう。
タクシーに乗ると母は運転手に行き先までの道程を簡単に説明した。
大体理解した様子の運転手は静かにタクシーを出し、誰もいない駅を後にした。
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